○学校・空き教室(昼)

美郷「れ、怜くんっ?」

視界いっぱいに広がる怜くんの顔を見つめることができず、俯く美郷。

怜「……っ、なんだよ」
美郷「怜くん?」

怜の様子がおかしい。
いつも余裕そうなのに、すごくなにかに焦っているような。

怜「なんで俺は触れさせてくれねぇのに、他の男には触らせてんだよ」
美郷「怜くん、どうしたの?」
怜「しかもなんだよ、その衣装。スカート短すぎだろ」

怜は美郷のスカートの裾をぎゅっと引っ張る。

美郷「怜くん……怒ってる?」
怜「あぁ」

美郷(やっぱり……)

美郷「私のせいで……」
怜「簡単に触らせてる美郷にも怒ってるし、こんなに余裕もない俺に苛立ってる」
美郷「……え?」
怜「美郷、抱きしめてもいいか?」
美郷「……っ、いい───」

美郷が答える前に怜が美郷をぎゅっと抱きしめる。

怜「美郷に触れていいのは俺だけだろ」
美郷「うん、ごめんね」
怜「俺こそごめん。美郷の気持ち考えないでキスしようとした」
美郷「ううん、怜くんは悪くない。私こそ突き飛ばしちゃって本当にごめんなさい」
怜「別に怒ってない」
美郷「ありがとう、怜くん」
怜「しばらくこうさせて。他の男が触れた消毒と上書き」
美郷「もしかして……嫉妬してくれてるの?」
怜「……別に」
美郷「ふふっ、嬉しい」
怜「美郷が簡単に触らせるのが悪いんだからな」
美郷「うん、ごめん」

美郷(怜くんも嫉妬してくれるんだ)

そのことに嬉しくなる美郷。

怜「この後時間あるか?」
美郷「うん」
怜「じゃあ一緒に回ろう」
美郷「本当に?いいの?」
怜「自分の彼女誘っといてダメとか言うやつがいるか?」


○学校(昼)

それから美郷と怜は一緒に学校祭のブースを回る。
撮影スタジオが作られている教室で一緒に写真を撮って貰ったり、お祭りらしくわたあめを買って食べたり、怜に無理やり連れられて苦手なお化け屋敷に入ったり。
お化け屋敷に入ったときには、怖すぎて怜に抱きついてしまった美郷。
それに怜は満足そうにしていた。
そのことに美郷は怒る。

美郷「怜くんのばかぁ!」
怜「はいはい。可愛かったよ、美郷」
美郷「そうじゃなくて!」

本当に怖かったんだからと頬を膨らませて怜を見る。

怜「じゃあお詫びにドリンク奢ってやるよ」

怜が立ち止まったのは、ドリンクをメインにしてお店をやっているブース。
ドリンクのメニューが充実していて、そこに美郷が大好きなバニラフラぺを見つけた。

美郷「怜くん、私これがいい!」
怜「バニラフラぺでいいのか?」
美郷「うん、私、バニラ好きなんだ」

怜に注文してもらい、バニラフラぺを受け取る。

美郷「ありがとう、怜くん」

美郷は受け取ってすぐにバニラフラぺを飲む。

美郷「んー、甘くて美味しい」
怜「俺にもちょーだい」

怜は美郷のバニラフラぺに手を伸ばして飲む。

怜「……あまっ」
美郷「怜くんは甘いの苦手?」
怜「あんま好きじゃないけど、バニラはいけるかも」
美郷「でしょ?バニラ美味しいんだから!」

怜と回る学校祭は楽しくて、時間が経つのがあっという間だった。


○校庭(夜)

もうすぐ後夜祭が始まる。
後夜祭では男女ペアになって踊るフォークダンスがあり、その後に花火が上がる。

フォークダンスを踊るため、全校生徒が校庭に集まってきていた。

来実「あっ、美郷ちゃーん!」
美郷「来実ちゃん!」

来実とは久しぶりに会う。

来実「作戦はどうだった?」
美郷「作戦?」
来実「桐嶋くん、嫉妬してくれた?」
美郷「あぁ、うん……って、来実ちゃんわかってたの?」
来実「もっちろん、そうさせるために仕向けたんだもん」

来実は時々やることがぶっ飛んでいる。
でも、そのおかげで何となく開いてしまっていたふたりの距離がまた縮まった。

美郷「ありがとう、来実ちゃん。お陰様で仲直りもできたよ」
来実「そっか、よかった」

「それで」と来実が耳元に近寄ってくる。

美郷「……?」
来実「キスはしたの?」
美郷「……っ!?」

美郷はびっくりして言葉を失う。

来実「その様子だとまだみたいね」
美郷「そんな簡単にできないよ……」
来実「でも、桐嶋くん待ってるんじゃないかなぁ」
美郷「そ、そうかなぁ」
来実「言ったでしょう?男はみんなオオカミなんだって」
美郷「うん……」
来実「花火はふたりで見るんでしょ?」
美郷「うん、そう約束してる」
来実「じゃあ、その時がチャンスね」
美郷「ちゃ、チャンスって!」
来実「頑張れっ、美郷ちゃんっ」


○校庭(夜)

フォークダンスが無事に終わり、花火を見ようとカップルや友達同士でまとまり、散っていく。
美郷も怜とまちあわせ、一緒にいた。

美郷「も、もうすぐ花火だね!」
怜「あぁ、そうだな」

美郷は来実に変なことを仕込まれたせいで、変に意識してしまいそわそわとしていた。

怜「様子おかしくね?なんかあった?」
美郷「ううん、なんでもないよ」

さすがにキスのことで胸がザワザワしているなんて言えなかった。

2人はふたりきりになりたいと、人混みから離れ、人の少ない校舎の非常階段に腰をかけていた。
ここからでもばっちり花火は見られそうだ。

美郷の胸はドクンドクンと波を打つ。
緊張しているのが自分でもわかった。

怜「お腹空かね?」
美郷「怜くん、お腹すいたの?」
怜「あぁ、俺、昼もあんまり食べてねーからな」

そういえば確かに怜くんはあまりものを食べていなかったことを思い出す。

美郷「これならあるよ」

美郷がポケットから取りだしたのは、バニラ飴。

美郷「怜くんにあげる」
怜「ありがと」

怜は受け取ってすぐに袋から取りだし、口の中へと転がせた。

しばらく無言の時間が続く。
美郷の頭の中はキスのことばかり。

美郷(やっぱり怜くんもキスしたいとか思うのかな。いや、思ってるよね。この前しようとしてくれたんだもん)

怜「美郷、そろそろ花火上がるぞ」
美郷「うん」

美郷が返事をしたのと同時に花火が上がった。
花火大会とは違って少し規模は小さいけれど、夜空に光咲く大きな大輪は、とっても綺麗だった。

隣の怜を見ると、瞳に花火を映しながら夜空を見上げていた。

怜「美郷?どうした?」
美郷「し、していいよ」
怜「……は?」
美郷「……キス……」
怜「今、なんて言った?」
美郷「も、もう言わないんだからっ!」
怜「本当にいいんだな?」

美郷(本当は聞こえてたんじゃん、バカ)

ちゃんと伝わっていたことが恥ずかしくて、美郷は頬を赤らめる。

怜「俺を煽った美郷が悪いんだからな」

怜が顔を近づけてくる。
美郷はぎゅっと目をつぶった。
重なる唇。
それはとっても柔らかくて温かかった。

想いが通じあってしたキスはバニラの味がした。
私の甘いバニラな恋。
とろけるバニラのような甘い怜くんに私は恋焦がれて。

最後に私たちを祝福するかのように、綺麗な花火が夜空に花開いて散っていった。




end