もう一度春日さんに“命令”を試してみようか。前はたまたま失敗しただけかもしれない。

 頭で考えるだけで、実行はできなかった。

 ……だって。春日さんにしてもらえることなら、もっと意味のあることをしてもらいたい。

 腕の中にいることも、決して嫌というわけではないから。言葉を飲み込んで受け入れてしまうのは、当然のことなのだ。



「あの……」

「ん?」

「おせろ……は、わたしの負けだったんでしょうか」



 勝ったとも負けたとも、記憶に残っていない。

 ここまですっぽり抜けているのは、さすがに気がかりだった。



「まだ勝負はついてないよ。りんが急に眠っちゃったから」

「えっ……! そ、そうだったんですか」

「なんで眠っちゃったのか、覚えてない?」



 髪に春日さんの指が通される。だんだんと上に滑らせてきて、耳の後ろで止まった。



「はい……覚えて、いません」

「そっか」



 寝不足ではあったため、納得できないことではないのだけれど。

 それにしても勝負の最中に眠ってしまうなんて、失礼にも程がある。