うちの先生は、毎日、うちにいます。

 たまに出かけるとしたら、散歩ぐらいです。

 ごはんとか掃除は、近所に住んでる通いのお手伝いさん、通称、ワテさんがしてくれます。

 なんで、ワテさんて言うかと言うと、いつも自分のことを、ワテって言うからです。

わてがしますがな、とか、わてもですがな、とか言います。

 先生がなんの先生かって言うと、小説家です。

 なんでも、歴史物が得意なんだそうです。

 んと、ボクが知ってる小説は、『吾輩(わがはい)は○である』です。

 設定からして、そういうお前は猫だろうって?

 そんな、夏目先生の二番煎(にばんせん)じじゃないですよ。

 じゃ、犬かって?

 えへへ。……チュー

 げっ! ネズミかって?

 えへへ、実は。

 この原作者はネズミが好きだなって?

 ってか、ボクを含めた毛深い系(哺乳類)が好きみたいです。

 ボクは大して毛深くありませんが、それでもなんか好きみたいです。

 それと、♪仲良くケンカしな~、の『トムとジェ○ー』も影響してるかと思います。はい。

 登場動物が偏ってて、どうもすみません。原作者さんの代わりに謝ります。

 では、先生の話に戻らさせていただきます。

 先生のペンネームは、岡目八目(おかめはちもく)。通称、〈オカメ〉です。

 え? 男じゃないのかって?

 先入観は捨ててください。

 先生は(れっき)としたレディです。




「ったくよ。なんで明智は信長を殺っちまったんだよ。信長がもうちっと長く生きてりゃ、歴史は変わっていたかも知れねぇのによ。どう変わったか、見たかったなぁ」

 オカメさんは、ボサボサの頭をポリポリ掻くと、ピース缶から両切りを一本抜きました。

「おう、ちゅー、ライター」

「チュー」

 オカメさんは、ボクのことを〈ちゅー〉と呼びます。

 ボクは、座卓の近くにある使い捨てライターを鼻先で押して、オカメさんが座っている座椅子のとこに運んでってあげます。

「おう、悪いな、くつろいでっとこを使っちまって」

 オカメさんはそう言って、ボクの顔をチラッと見ます。

「チュー」

「ゴホッゴホッ! 両切りはやっぱ、キツイな。吸い慣れたメンソールにすっか。タバコと枕はやっぱ、慣れたのがいいや」

 と、ま、こんな具合です。



「先生、夕食ができましたえ。どうぞ、召し上がっておくれやす」

 も、お気づきでしょうが、ワテさんは京都の出身です。

 なんでも、娘さんが東男(あずまおとこ)のとこに嫁いで、ワテさんを一人、京都に残すのは心配だからということで、娘さんのご主人宅に同居してるんだそうです。

「あら、美味しそうやわ。いただきます」

 オカメさんは、ワテさんと話す時は、ワテさんに教えてもらった京都弁を使用します。

 さっきまでとは一変しますので、ご注意ください。

「わての味付けは、だし濃くの薄味どす。先生の好みの味どすえ」

「ん~、ほんま、美味しいわ。大根にだしがしみて、それでいてしょっぱくなくて。大好きやわ、ワテさんの味付け」

「ゲヘッ。料理のことなら、このわてに任せておくれやす。うまいもんをぎょうさん作りますよってに」

「おおきに」

「ほな、時間どすさかい、おいとましますえ。お風呂、沸いてますよってに」

「おおきに。気ぃつけて」

「へ。ほな」

「さいなら」

 オカメさんは、ワテさんが帰ると、ボクを呼びます。

「ちゅー、めし。一緒に食おうぜ」

「チュー」

 オカメさんは、ボク専用の皿に惣菜(そうざい)を小分けにして入れてくれます。

「はいよ」

「チュー! がぶっ」

 ほんと、美味しいです。

 皿をガタガタさせながらペロッと食べちゃいました。

「早っ。ちゃんと味わって食べなよ。さて、テレビでも観っか。ちゅー、リモコンの電源オン!」

「チュー!」

 と、ま、こんな具合です。