トイレに用事なんか,もうちっとも無さそうだから。

私はそう訊ねた。

言葉に詰まることもなく,さらりと告げられる。



「いいんだよ,僕,お腹壊す予定だから」



悪びれもなく両手の平を向けられて,私は笑った。



「なにそれっ」



ただ観ているだけの,何が嫌なんだろう。

それでもどこか清々しくて,私はまた笑う。

さっきまで,何がと言葉に出来ずともすごくショックを受けていたと言うのに。

もう何もかもが,どうでも良くなって来ていた。



「十和く……」



何か違う,そう思って,私は言葉を止める。

この人にくん付けは,どことなく何か似合わない。

私は人の呼び方を,そうやって決める。

初対面だけど……



「ねぇ,十和って呼んでもいい?」

「……うん」

「ひどいよね,生まれた瞬間から,私は女の子なのに……! 髪型だって……ほら見て? 今日はポニーだけど,毎日変えてるんだよ?」



突如始まった愚痴タイム,それはきっと,誰にだって話したことが無いようなこと。

話題がこれしかない他人だから,仕方ないでしょう,うん。

それを,十和は聞いてるのか聞いてないのか,前を見て,そよ風でも楽しむかのように聞いていた。

私は,顔を上げないと見えない十和に話しかける。