君の愛に酔う~藤の下で出会った2人の物語~

去っていくシュトラウスの背中を見つめながら、
ユリウスは首を傾げた。
(ウルフェニー家には3人娘がいたが、結婚できる年齢に達している王女は長女のデルフィーヌではなかったか?)
ユーフォルビアの宰相から縁談を持ちかけられた時も、
政治上有益だとの重臣たちの意見に押されて承諾した。
叔父のコンラートとの継承権争いに勝ったとはいえ、コンラート派の貴族もいまだ一定数いる。
隣国の大国の後ろ盾が得られれば有難いとユリウス自身も思った。

そういうわけで、正直、ユーフォルビア王家の女性であれば誰でも良かったので
相手に関しては興味がなく調べもしなかったため、
縁談がまとまったときのジゼルに関する報告書にユリウスは全く目を通していなかった。
そのため今の今まで、自分の相手はデルフィーヌだとばかり思いこんでいたのだった。
(何か有事の際に実の娘を危険にさらしたくないから、適当な娘を王女に仕立て上げて送り込んできたのか?だとしたら我がマグノリア王国はずいぶん馬鹿にされているな。)
内戦に身を投じてきたせいですっかり疑り深くなってしまったユリウスは、
何事も悪い方向に考えてしまう。
(だとしたら、その娘はあまり信用しない方がいい。王妃としてそれなりに尊重し、過度な情はかけないことだ。)
愛や恋といったものに憧れの欠片もないユリウスは、これから始まる夫婦生活を思うと憂鬱な気持ちになるのだった。