「アーニャ、待ってよ~」
「ノア、悔しかったらここまで来てごらんなさい!」

マグノリア王国の第一王女アナベルと王太子ノアが
今日も元気に中庭を走り回っている。
2人が遊んでいる中庭にある藤棚は、今日も美しい藤が満開だ。
そしてこの藤棚に設けられたベンチには、仲良く寄り添う男女の彫像が鎮座している。
ユリウス国王とジゼル王妃である。

ユリウス国王はその長い治世において、
ウィステリアやハイドランジアとの友好関係を深め、
両国の先進的な技術を積極的に取り入れた。
現代では、「マグノリア近代化の父」として広く国民に敬愛されている。

ユリウス国王の妻であるジゼル王妃は慈善活動に情熱を傾けた。
自給率を向上させるために養分の少ない土地でも丈夫に育つ小麦や野菜の品種を開発したり、
女性の地位向上を目的として、女性の就学・就職を推し進めた。
ユリウス国王とも大変仲睦まじく、
国王のサポートの傍ら、2男3女の5人の子どもたちに恵まれ、幸せな家庭を築いた。
「良妻賢母」の模範として、ジゼルは今でもマグノリアの女の子たちの憧れの存在だ。

ユリウスとジゼルが愛した藤棚は、
子、孫、ひ孫と代々大切に受け継がれ、
2人はその藤棚の下で、今日も子孫の幸せな姿を静かに見守っているのである。