「ただ私も子供の時に1回だけ行ったきりだから、記憶があいまいな部分もあってね。でも幸運なことにこの藤棚づくりを助けてくれた人がいたんだ。」
ユリウスはそう言うと、庭園の隅に控えていた一人の男性を手招きする。
「グリシーヌ宮の藤棚を知っているというと・・・やっぱりアラン?」

「お久しゅうございます、お姫様。」
目の前に現れた男性を見て、ジゼルはまたしても驚く。
白髪や顔の皺がすっかり増えて老け込んでいるが、
この人は間違いなくグリシーヌ宮の藤棚の手入れを手伝ってくれていたコルベールだ。
「コルベールさん!!どうしてここに?」
ジゼルの問いかけにコルベールはニコニコと答える。

「ユリウス国王陛下のおかげでございます。数年前のユーフォルビアでの革命の際に、グリシーヌ宮も破壊されて、前王妃様とお姫様の大切な藤棚も失われてしまいました。私も職を失い、路頭に迷っていたところを拾ってくださったんです。」
「あなたが革命の犠牲にならなくて本当に良かった。王宮で働いていたものは王党派だと認定されて、処刑台に行かされたと噂で聞いたもの。」
「処刑が本格化する前になんとか抜け出せたのです。お姫様の幼馴染のアランが彼の父をマグノリアに亡命させるときに、私も連れ出してくれましたから。」
アランは何一つ話さなかったけど、実父とコルベールの2人を亡命させるのは大変だったに違いない。
困っている人を放っておかないのが、いかにもアランだ。
彼は近々、マグノリアで個人医院を開業させると聞いている。
患者一人一人に寄り添った良い医者になるだろう。