どんなに忙しくても、
どんなに寝不足が続いていても、
自分の感情を滅多に表に出すことのないユリウスは
珍しく苛立っていた。

”陛下、これはどういたしましょう?”
”陛下、晩餐会の席次を確認してほしいのですが・・・”
”陛下、宮廷楽団が演奏する曲目でご指定はございますか?”
「この城の者たちは、自分で考えるということができないのか!」
毎日毎日自分にお伺いを立ててくる侍従たちにたまりかねて、
ついに執務室で声を荒げてしまった。

「落ち着いてくだされ、陛下。皆、陛下の晴れ舞台に間違いがないよう、万全を期しているのです。」
宰相を務めるシュトラウスがユリウスを宥める。
シュトラウスは前々国王の時代から王家に仕えており、
ユリウスが幼いときは養育係として厳しく育て上げてくれた。
継承戦争時もユリウスをそばで支え続け、ユリウスが全幅の信頼を寄せる人物である。

「晴れ舞台など、周りが勝手に色めき立っているだけで私は何とも思っていない。王がこなさなければならない数ある儀式の1つに過ぎないだろう。」
「陛下が何とも思っていない儀式のために、ユーフォルビアの王女は1カ月をかけて来てくださるのですよ。その王女の労をねぎらうためにも華やかな式典にしてあげませんと。」
「派手にやればいいというものではない。長く続いた内戦で財政も厳しいんだ。テーブルクロスの色や装花のことなど、俺は知らん。こだわりもないから勝手に決めてくれ。」
「陛下は血も涙もない冷血漢と思われていますから、陛下の気に沿わないことはできないと思われているのですよ。」
ユリウスとシュトラウスが話していると、
また執務室の扉がノックされる。