眼球を舐めたい

 それまで意地でも瞼を上げなかったのに、男の中の男の主張を指摘されたことで、一瞬にして焦りが募った。確認しなければと無意識のうちに目を開けてしまった俺の眼前に、瞳孔の開いた高槻の端正な顔面が映り込む。あ、という間もなく、股下に入れられていた足で体の中心部を押された。生理現象であったとしても、この状況でどうしてそうなってしまったのだろう、高槻の言う通り、そこは硬直していた。僅かな快感が広がる。

 またしても信じられないことが起こってしまった。この事実を広められてしまっては、俺の面目が立たなくなってしまう。男に言い寄られ、耳を舐められ、どうして俺の下は興奮しているのか。俺が脅したはずなのに、どうして俺が脅されているのか。そのあまりの恥ずかしさと悔しさに、鼻の奥がつんと痛くなった。

「別に俺の性癖は暴露してもいいけど、その代わり、俺もこのことを校内放送で晒す。嫌なら眼球を舐めさせて。嫌じゃなくても眼球を舐めさせて。俺は羽柴の眼球を舐めたい。黒く澄んでいて綺麗で、おいしそう」

 理不尽だ。どちらを選択しても、俺は高槻に眼球を舐められる。舐めさせないと、彼はいつまでも俺を拘束する。舐めさせないと、彼はいつまでも俺に付き纏う。もう俺を前にしても隠す必要がないから。眼球を舐めたいという欲求を。隠す必要がない。

「やめ、やめろ……。な、情けないから、晒すな……。おれ、俺も、広めない、から……」

 強気な態度を示せなかった。自分が萎れていくのが分かった。何を言っても、高槻に効果はない。高槻に傷はつかない。高槻は他人からの評価など、どうでもいいと思っている。欲に忠実で、そのためならばなんだってする。