羽柴(はしば)の眼球を舐めたい」

「……ん? え、えっと、ごめん、なんて?」

「眼球を舐めたい」

「……は、え? がんきゅ、なめ……、え……?」

「眼球を舐めたい」

「まっ……、なに、な、え……?」

「眼球を舐めたい」

 羽柴。瞳孔の開いた目で俺の目を食い入るように見つめ、高揚したように俺の名前を呼ぶ高槻(たかつき)の息が近くなる。近くなって、耳元で声がするような感覚に陥った。

 眼球を舐めたい。何度聞いても、俺にはそう聞こえてしまう。否、高槻は本当にそう言っているのだ。俺の聞き間違いではない。眼球を舐めたい、と。俺の目を見ながら、眼球を舐めたい、と。彼はそう言っているのだ。冗談を口にしている目ではない。だから、混乱している。

 高槻とは、よく目が合うことがあった。誰にも関心を示さない、一匹狼で有名な彼が、どこにでもいる平凡な俺に興味を持っているのだろうか、と密かに人気のある彼からの視線を不思議に思っていたが、それがまさか、俺そのものではなく、俺の眼球に関心を寄せていただなんて、誰が予想できたのだろう。

 ちょうど、帰宅しようとしていたところだった。教室を出て廊下を歩いている時に、背後から高槻に声をかけられ、無警戒なままのこのことついて行ってしまったら、眼球を舐めたい、という理解しがたい願望を聞かされてしまったのは。何度確認しても、何度反芻しても、彼は眼球を舐めたいと言っている。俺の。俺の眼球を。