(あ! 白桜様! 百合緋様も一緒だ~)

「あ、白桜サマ。百合緋サマも一緒だ~、って顔してるね。月音ちゃん」

「うおうっ!? 何故私の心を読んだ!? 小田切くんっ」

「当たってたんだ。……ちょっと複雑」

まだ始業前の時間、場所は一階廊下の教員室の前。

月音が、白桜と百合緋が二人で歩いているところを見つけたところだ。

何故か落ち込んだように視線を斜め下に下げる煌の腕を引っ張って、今日も物陰に隠れる月音だ。

「……なんで俺まで?」

「推し活は周りに迷惑かけちゃだめなんだよ」

「そうなんだ……。うん? なんか見たことない人――」

「黒!」

(え?)

煌が見ている方向に目をやると、白桜が嬉しそうな顔で名前を呼んだところだった。

たった今教員室から出てきた様子の男子生徒は、黒髪に前髪にひと房銀色が混じった、怜悧(れいり)な印象を受ける青年だった。

だが、冷たそう、と思ったのも一瞬で、白桜を見て相好を崩した。

「白!」

(もしかして、あの方が影小路の黒藤様?)

白桜が『黒』と呼んでいたし、転校してくるという情報を先日煌から聞いているから可能性は高いだろう――

「……えっ」
 
っ頓狂な声は、隣の煌からもれたものだった。

黒藤が、白桜に、キスをした。

白桜は三秒ほど固まったのち、突き飛ばしてかかと落としを喰らわせていた。

月音も五秒ほど固まったのち、煌の腕をつかんで白桜たちがいる方とは反対側の廊下へ駆け出した。