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月音と煌、そして碧人を見送ったあとの白桜の私室の縁側(えんがわ)で、黒藤は片膝を立てもう片方の足は伸ばして夜天を見上げていた。

「はー……煌と月音、いいなあ……」

「いきなりなんだよ」

傍(そば)に座る白桜は、台所を取り仕切っている家人が持ってきてくれた白湯の入った碗を傾ける。

今日は色々あった……。

まさか初等部から自分をつけまわしていた子が、神崎と桜木の混血だったとは正直驚きしかない。

桜木家は、黒藤の母の双子の姉が養子に出された先だ。

今はもう桜木家は術師としての体はなしていないが、その血は生きている。

月音が各方面から狙われることになる前に手を打てて良かったと思う。

黒藤は立てた膝の上に手をはさみ、前傾姿勢になって顎を載せた。

「いやあ、身近に幸せな奴らがいると自分もそうなりてー、って思わない? 白、そろそろ俺の嫁にならない?」

「無理だろ」

「無理じゃないよー。女の子に戻ろーよー」

黒藤の駄々に、白桜、盛大なため息をついた。

「……俺は生まれたときから性別がないから、戻るとかそういう話じゃないんだよ。それにそんなことしたら俺は死ぬぞ」

簡単な事実を口にすると、黒藤は「そうなんだよなー」とうなった。

「……白が死ぬのはいやだから、そこどうにかなんない? なあ、太陰(たいおん)」

「勝手に俺の中身に話しかけるな」

『ほほほ。そうよの。わたくしとしては――』

「勝手に話すなと言っている。太陰(たいいん)」

『ふん。戯(たわむ)れもゆるさぬとは、ほんにおぬしは頑固者よ』

ぷん、とそっぽを向いたのがわかって、白桜はため息をついた。

白桜の中にあるのは、月の化身(けしん)だ。

それは白桜から女性(にょしょう)を奪った張本人であり、同時に、白桜を生かしている存在だった。

月をその身に宿した背徳の陰陽師。

――祖父の白里が何より隠したがっているのは、当時は御門流次代であった後継者の孫が、月に憑かれているという事実だった。

それは白桜の母と、太陰の間で行われた取引。

白桜の性別と引き換えに、白桜の命を繋いだ。