私たちが教室に戻ったあと、佳奈は学校を早退していた。

クラスメイトたちは私たちが普通に話をしている様子を見て一体何があったんだ、と異様な目で見てきたがそんなことは気にしない。

そんなことよりも、私はまず最初にありがとうと伝えたい人がいた。

「暖…!ありがとう」
嬉しそうに呼ぶ私に対して、暖は「おかえり」といつも通りの優しい笑顔で迎えてくれた。

「暖のおかげだよ…私、まだまだ弱いけどそれでも暖が背中を押してくれたから1歩だけ前へ進めたと思う」

私は前よりもほんの少しだけ、自分に自信をもって
目を見て暖と話をすることができていた。

それもこれも、全部暖のおかげだ。
暖がいなかったらここまでこれていなかった。

なのに彼は
「…ううん、僕は何もしてないよ。これは冷が頑張った結果だから」と謙遜している。

そんなことないのに、と言おうとするがきっと否定しても暖はそれを受け入れないだろうと思って口にするのはやめた。

そんな時、暖も口を開いた。
「僕も、冷に伝えたいことがあるから聞いて」

私は戸惑いながらも、暖の言葉を聞き逃さないように「うん、分かった」と返す。

暖は目を閉じて、そして今までに一番優しく、落ち着いた声でゆっくりと、私に伝えてくれた。

_____「よく頑張ったね、冷」

そう言う彼を見ると、急に安心感がどっと押し寄せた。

今まで無意識に体に力をいれていたのか、ゆっくりと呼吸ができているのを肌で感じる。

色素の薄い優しさのこもる澄んだ瞳と、窓から差し込む光に照らされている彼はどうしようもなく綺麗で。

あぁ、やっぱり私はこの人が『 好き 』だなと改めて実感してしまう。