【短】猫かぶりの彼は、甘いものがお好き





「ハス、何か元気ないね。大丈夫?」


「へっ!?ないない!そんなことないっ!」




柳沢くんは非常に目ざとい。

教室に戻ってきた私の顔を見るなり、すぐ異変を察知された。

まあ、彼に言わせれば「ハスがわかりやすすぎるだけ」らしいけれど。



完全無欠の王子様と名高い柳沢奏多は、彼女の香田(こうだ)葉澄にベタ惚れで甘い。

この学校では有名な話。


だけど、実際はちょっと違ったりする。


私を気遣うように何度も優しく声をかけてくれていた柳沢くんは、やがて周りに人がいなくなると大きなため息をついた。




「……はあ。で、いい加減に白状すれば?どうせハスに隠し事なんて無理なんだから」




甘くて優しい王子様ボイスが、ひんやりとした素モードに切り替わる。



──何が実際とは違うって、“完全無欠の王子様”の部分が違う。


柳沢くんは、普段猫をかぶっている。

本当の柳沢くんは王子様などではなく、顔は良いけど性格のひねくれた口の悪い奴だ。