「高っ!!何これ1桁間違えてない!?ごめんねきっしーさん、今のなし……」
「ふん。まあ一応気に止めておいてあげるわ。……ところで」
岸井さんはバサッと髪をかきあげて私を見る。
「あなたは、当然奏多くんに手作りのチョコを渡すのよね?」
「ううん。私料理苦手だもん。美味しそうなの買って渡した方が良いかなって」
「馬っっっ鹿じゃないの!?」
本日二度目の「馬鹿じゃないの」を食らってしまった。
大きな声がキーンと響いて耳を塞ぐ私に、岸井さんはビシッと指をさす。
「手作りチョコを渡せるのは恋人の特権よ!それを自ら捨てようなんて本当に馬鹿!!」
「ご、ごめんなさい……」
「見損なったわ。言っておくけどね、私は奏多くんに、本命チョコとして渡すわよ」
腕を組んで、フンっと鼻を鳴らす岸井さん。
そのままふわふわの髪をなびかせて行ってしまった。
残された私は、ようやく危機感を覚え始めた。
……あれ、もしかしてバレンタインって、手作りを渡さなきゃヤバい?



