「ねえ葉澄(はすみ)。バレンタインに私が奏多くんにチョコレートを渡したって、別に問題ないわよね?」




二月初旬。


廊下を歩く私を拉致した岸井(きしい)さんは、悪女感満載の笑顔を浮かべながらそう言った。


緩くパーマをあてた黒髪ロングにカチューシャがよく似合う、悪役顔美女・岸井まいさん。通称きっしー。

彼女は、私の彼氏である柳沢(やなざわ)奏多(かなた)くんに恋をしていた。


以前はそれが原因で嫌がらせをされたこともあった。体育倉庫に閉じ込められるなどした。


だれど、今は和解して友達になったはず……だ。




「ええっと、私に止める権利はないと思うけど……」


「はあ?馬鹿じゃないの?逆に止める権利はあなたにしかないわよ!」




あれ、何でこの流れで怒られた?




「……ああなるほど。奏多くんが私にチョコを渡されたぐらいじゃ(なび)かないって自信があるわけね」


「そういうわけじゃないけどっ!……ダメって言っても渡すでしょ、きっしーさん」


「当然」