オフィス棟を出ると、たくさんのカップルが腕を組んで歩いていた。

きっと誰もが幸せな気分になるクリスマス・イブ。

じゃあ自分にも、何か奇跡は起こるだろうか…

諦めていた事が、叶うだろうか…

頭の中に加藤の言葉が蘇る。

『後悔だけはするな。あとで悔やんでも時間は戻らない。手放したものは、戻って来ないんだからな』

そうだ、今言わなかったら、俺はきっと後悔する。

今手放してしまったら、きっともう戻って来てはくれない。

山下は顔を上げると、一目散にタクシー乗り場に向かう。

行き先を告げ、やがて到着したアパートの階段を駆け上がった。

しかし…

「…嘘だろ」

山下は玄関の前で立ち尽くした。
小雪を手放してしまった事を後悔しながら…