「稜さんが、瑠璃さんのことを、瑠璃ちゃんって呼んでらっしゃるから、私、びっくりしてしまって…。総支配人夫人ってことを知らずに、瑠璃さんに言い寄ろうとしてるんじゃないかって、勘違いして…」
「あー、なるほどね。それで、すみれちゃんを悲しませるような事したら許さないって言ってたのか」
「えっ、私がそう言ったんですか?」

うん、まあね、と山下は苦笑いする。

「酔っ払った時、そんな事まで言ってたんですね。本当にもう、恥ずかしいやら情けないやら…。私、稜さんには、ご迷惑ばかりおかけして。あの、最後に何かお詫びをさせて頂けませんか?東京に住んでる間に…」
「いいよ、そんなの」

最後に、という小雪のセリフが、山下の心に突き刺さるようだった。

「本当に気にしなくていいから。じゃあ、瑠璃ちゃんに渡すの、よろしくね」

そう言うと、そそくさとナーサリーを出て行った。