翌日。

コーヒーの良い香りで私は目を覚ました。

「ほら、いつまで寝てんだよ。初日から遅刻なんて愚行ありえないからな。さっさと制服着替えてダイニングに来て。朝食出来てるから」

それだけ言うと、私の部屋を後にする侑也くん。

そうだ…私、今日から櫻乃学園に通うんだ。

机の上にキッチリ置かれている制服を見て、彼が置いてくれたことに気づく。

綺麗にたたまれた制服はシワの1つも見当たらない。

なるほど…。執事としての仕事だけはちゃんとすると言っていた彼の話は信じてよさそうだ。

私はサッとベッドから起き上がり、寝巻きを脱ぐと置かれている制服に袖を通した。

「…おはよう」

「そこ座って。髪は僕がするからあんたはそれ食べて」

制服に着替えて部屋を出た瞬間、侑也くんにテーブルの前の椅子に座るよう指示される。

ひとまず、ここでの生活に慣れるまでは彼に従っておいた方が得策だと私も素直に席につく。

そして、ふとテーブルの上に視線を移した私は驚いて目を丸くした。

良い匂いの正体これだったんだ…。

テーブルの上には、コーヒーにヨーグルト。コーンスープに、目玉焼き。焼きたてのパンが並び美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。

すごい…。自分の準備も完璧に済ませた上でここまでの準備。

『君もっと感謝したら?西園寺グループの権威があってこそだよ、僕クラスの執事見習いがつくなんて』

あの言葉は今思い出しても鼻につくが、自分でそう言ってのけるくらいには優秀だということなのだろう。

「…ありがとう。いただきます」

「別に…これが僕の仕事だからね。っと、あんたが遅いからあんま時間ないな…ほら、髪も済んだよ。あと…学園に着くまでにこれ暗記すること」

パンを一口頬張った時、バサッと無雑作に置かれたノートを見つめ、私はキョトンとした表情を浮かべる。

「なにこれ…?」

怪訝そうにノートを見つめる私に侑也くんはニヤリとほくそ笑んだ。