「ハァ…。本当に大丈夫かな…?不安しかないんだけど…」

大きな黒塗りのリムジンの中、私は小さくため息をこぼした。

乗り心地は良いが、ザッと数十人は乗れそうなくらい広い車内にポツンと一人でいると妙に落ち着かない。

ご丁寧に、水、お茶等の飲み物に加え、ちょっとしたお菓子なんかも備え付けられてあるものの、制服を汚したら…と考えると恐ろしくて手をつける気になれなかった。


「制服だけで50万円とか…そのお金で何ヶ月生活できると思ってんのよ」


まだ真新しい制服は、一式揃えるのだけで50万はするんだとか。


「どんな生地でできてんの、これ!」と値段を聞いた時は心の中で思わずツッコミをいれてしまったくらい。


確かにレトロなワンピース風の制服はデザインも凝っていて可愛いのだけれど…。


そして、チラリとリムジンの窓から見えてくる大きな城のような建物を見てさらに憂鬱な気持ちになる。


今日からここ私立櫻乃学園の1年生として転入することになった私の名前は、西園寺琴乃。16歳の高校1年生だ。


私立櫻乃学園は、由緒正しきお嬢様と執事見習いを教育するための学園。


お嬢様学科と執事学科がある珍しいこの学園はそれぞれ普通の高校のカリキュラムに加え、特別授業が存在する。


お嬢様学科では、礼儀作法や茶道といったお嬢様に必要なマナーを学び。


執事学科では、将来執事を目指す男子たちが執事に必要な所作を学ぶ。


そんな一般人には縁もないようなこの学園。


さて、皆さんはここまでの私の言動でお気づきだろう。


残念ながら、私がお嬢様なんかに縁遠いただの一般人だということを。