はやく俺のこと好きになってよ、先輩。




ーーー高校1年の5月半ば頃だったかな。


入学してまだ間もないというのに、私は、2年女子の先輩たち5人組に呼び出され、校舎の端の非常階段下まで連れて来られ囲まれていた。


「可愛いからって調子乗らないでくれる?」


急にそんなこと言われて、肩を強く押され、ドスッと尻もちをついた時だった。


「何してんの?」


上から男の人の声がして、ゆっくり見上げると非常階段の踊り場で肘をついてこっちを見ている人がいた。


「っ!朝比奈・・・先輩・・・」


「いじめ?」


「っ、ち、ちがいます。・・・行こっ」


私を押し倒したリーダーみたいな先輩がそういうと、5人は足早に立ち去っていった。


「大丈夫?」


いつのまにか階段を降りて来たのか、その人は目の前に立つと私に手を差し伸べた。


それが朝比奈 利空(りく)先輩との出会いだった。


冗談抜きで王子様かと思った。


すらりと背は高く、色素の薄い茶髪は毛先を遊ばせていて、スッと通った鼻筋に形のいい唇。私が映った焦げ茶色の瞳もとても綺麗だと思った。


「1年生の西村、明華ちゃんだよね?」


「はい・・・。なんで知って・・・」


「ハハ、有名人だよ?ほら、だからこうやって呼び出されてんでしょ?」


朝比奈先輩は笑いながら、気さくに話してくれたんだ。


それから朝比奈先輩とは校内で会うと挨拶を交わしたり、少し立ち話するようになった。