はやく俺のこと好きになってよ、先輩。



スマホを出すと仁乃から「大丈夫?」とメッセージが届いていた。


そうだ、仁乃を待たせてる。


そこからは、急に金縛りが解けたように自然とトイレの水を流し、手を洗ってトイレを出て教室に向かって歩き出していた。


手を洗った時、少し手が震えていた。



・・・・・・遊ばれてる、の?私。


全部、嘘なの・・・・・・?



でも、思い返してみても、頭の中に出てくる一ノ瀬くんは嘘ついているようには思えなくて。


笑った顔も、余裕が無さそうな顔も、弱さを見せてくれた一ノ瀬くんも、手を引く強さも温かさも、真剣な瞳も・・・


これが全部、演技だったっていうの・・・?



・・・・・・一ノ瀬くんに聞かなきゃ。



『遥斗の演技はホントヤバいからねー』



でも・・・、もし、そうだって言われたら?


全部演技だったって。先輩のことなんか好きじゃなかったって、一ノ瀬くんの口から言われたら・・・・・・?


そんなの・・・・・・無理。


多分、一生立ち直れない。



そんなことを考えていたら、いつのまにか教室に着いていて、


「明華!大丈夫?」


心配そうな仁乃が机に座って待っていた。


「うん、大丈夫大丈夫。ごめん、待たせて。食べよっか、お腹空いたー」


慌てて席に座ってガサガサとパンを取り出す私に、仁乃の探るような視線を感じたけれど、気づかないフリをしてスパイシーウインナードッグにかぶりついた。


このピリ辛のウインナーが大好きなのに、今は余計に鼻の奥がツーンとして、涙が湧き出そうになるのを必死で堪えた。