和葉は漬け物石が乗ったような重い足取りで、先日と同じ作業位置についた。
あ〜あ。
全っ然楽しくないっ!!
遊び盛りの華の女子高生が、こんなど田舎の畑に入って大根の種蒔きなんてやってらんないよ。
これからの人生に野菜の種蒔きなんて必要ないし。
今頃、祐宇達は彼氏とデートとかして楽しんでるんだろうなぁ。
美味しいものを食べたり、ショッピングしたり、有名なカフェに行ってスイーツを分け合って食べちゃったりして。
くっそ、羨ましい……。
私なんて賭け事ひとつで泥棒ババァみたいな格好までしちゃって。
はぁ〜、バカバカしい。
でも、今日入れて残り4回の農作業を頑張れば拓真とデート出来るのね。
……って言うか。
デートにこぎつくまでハードル高過ぎじゃない?
今までの男だったらこんなに苦労をしなかったよ。
気付かぬ間にグチグチとひとり言を漏らしていると、気付いた拓真は作業している手を止めて遠くから叫んだ。
「文句ばかり垂れてないで少しは手を動かせよ。いいか、何度も言うけどサボるなよ! 作業は午前中に終わらせるからな」
「……は〜い。わかってるよ」
まるで熱血教師みたいな口調。
しかも地獄耳だ。
拓真ったら聞き耳立てちゃって、近所の噂好きのおばさんみたい。
「さぁさぁ、二人とも。炎天下の中お疲れ様。お昼ご飯を用意したから召し上がって」
前回昼に出してもらったおにぎりは拓真がキッチンから持って来てくれたけど、今日はお婆さんが昼食を運んできてくれた。
朝早くから農作業をしていた私達を労って栄養のある献立を考えてくれたのだろう。
湯気が立つスパゲティが目の前に並べられ、ちゃぶ台中央にはパルメザンチーズが置かれた。
和葉は美味しそうな香りが漂ってくると、お腹がグゥと鳴った。
しかし、ケチャップ臭が漂う見た事のないオレンジ色のパスタ料理に思わず首を傾げる。
「ねぇ。コレ、何ていう料理名なの? ミートソースを薄めたやつ? パスタにピーマンが入ってる料理なんて一度も見た事がない」
「ミートソースを薄めたなんて婆ちゃんに失礼だぞ。これはナポリタンだよ。ナ・ポ・リ・タ・ン! 食った事ねぇの?」
「へぇ、ナポリタンって言うんだ。一度も食べた事がないな。うちのお母さんは全く料理をしないから」
「じゃあ、いつも何食ってんの?」
「んー、最近だとおじさんが作った味噌汁かな」
「おじさんって……。お前んちは一体どんな家庭環境なんだよ」
拓真はプライベートな質問なんてしてこないから、当然知るはずがない。
生まれてから父親が3人も変わってると知ったら、きっと他の人と同じように驚くだろう。
でも、真実を伝えたとしてもどう反応するか大体想像がつくから敢えて言葉を濁した。
「やだぁ、少しは和葉に興味が湧いちゃった?」
「あのな……、何度も言うけどお前に興味ないから。聞き返したのは、お前が意味深発言をしたからだろ」
冗談で言っただけなのに、いつも返答に可愛げがない。
毎日少しずつ距離を縮めているつもりだけど、『興味がない』と言い切られてしまうと、成果がちっとも得られていないような気がする。



