LOVE HUNTER



洗面所で作業着に着替え終えてから畑に移動して、先に作業している拓真に到着を伝える。



「拓真ぁ……。和葉が到着したよ……」



テンションがダダ下がりのまま死んだ目でそう呼ぶと、拓真はダサい姿を見るなり腹を抱えながら大爆笑する。



「っ、だせぇ! くっくっく。その姿を写真に撮っていい? いい思い出になりそう」

「ダメに決まってるでしょ。思い出作るならもっと輝かしいものにしてよ」



皮肉を言って笑いが止まらない拓真を見た途端、とてつもなく腹立たしい気分に。

笑ってもらうと笑われるでは、かなりの格差がある。
拓真の笑顔は見たいと思っているけど、自分を卑下(ひげ)してまで見たくはない。





農作業の準備が整った二人は、先週と同じく拓真の自宅に背中を向けて畑の前に立ち並ぶ。



デート目的で畑に通っているけど、血色のいい艶やかな唇に辿り着くのはいつになる事やら。

拓真を落とすと決めたあの日の段取りからすると、三週間後にはとっくに彼氏になっていたはずなのに、拓真が歩み寄る気がないから本来の予定が大幅に狂っている。



「……何見てんだ」



拓真は唇に目線が張り付いている和葉に気付いた途端、嫌そうに眉をひそめた。



「全〜然っ、見てないよ。色っぽい拓真の唇なんて。今すぐにでもチューしたいだなんて全然思ってないから」

「……っ!」



上手く誤魔化したつもりが心の声はダダ漏れだ。
拓真は一旦気を取り直して、午前中の作業の説明を始めた。



「午前中は大根の種蒔きをする。まず、土に20センチ間隔に穴を開けて、一つの穴に4〜5粒くらいの種を蒔く。蒔き終えたら、上から土を軽くかぶせる。俺は向こうの隅からスタートするから、お前はこの前スタートした場所から開始な」



と、拓真から大根の種がたっぷり入っている袋を手渡された。
前回と前々回の作業から教訓すると、この袋の中の大根の種は孤独行きの切符に過ぎない。



「毎回一人で作業するのが寂しいから、拓真と仲良く喋りながら作業したい」

「ダメだ。少しでも甘やかすと、お前は口ばっかり動かして手はサボるだろ」


「ちぇっ……」



数々の男を魅了する時の可愛らしく甘える作戦は、何故かいつも簡単に跳ね除けられてしまう。
残念ながら、この作戦は意中の相手に通用しないようだ。