「……俺が不機嫌になった理由が本当にわからない?」
「えぇっ、わかんない……。もしかして、和葉が意地悪で捻くれた性格って言ったから?」
「それじゃない」
「それじゃないって、イミフ〜」
拓真は、和葉のあまりにも軽薄な態度にワナワナと拳を震わせた。
「…っく、だったら教えてやるよ」
「え……?」
「昨日、お前に酷い言い方をしたからって枕に仕返ししただろ! しかも、布団をグチャグチャにした上に、貸してやった服も脱ぎ捨てにしやがって。お前のせいで昨晩は妙に夢見心地が悪かったじゃねーか」
頭上から雷が降り注いだ和葉は、拓真の不機嫌な理由は汚した枕とぐちゃぐちゃにした布団と脱ぎ捨てた作業着だと知る。
だが、和葉はただそれだけの事で不機嫌になる意味がわからない。
「和葉は枕に仕返しなんてしてない! ただ、あらゆる汁は付いちゃったかもしれないけど、そんなの小さなアクシデントじゃない」
「だからそれが嫌だって言ってんだろ! お前が現れてからロクな事がない」
「それはこっちのセリフ! 拓真が優しくしてくれないから。いつも和葉に対して愛が足りないんだよ。愛が!」
二人は喧嘩腰になっているせいか、クラス内はシーンと静まり返った挙句、一斉に注目を浴びた。
拓真は異様な空気にふと我に返って辺りを見回すと、生徒達の目線を集めていた事に気付いた。
枕
ぐちゃぐちゃにした布団
貸した服を脱ぎ捨て
優しくしてくれない
愛が足りない
激しく言い争っていた二人の言動は、思春期を迎えてる生徒達にピンク色の妄想を繰り広げさせていた。
拓真は周囲の反応を見て、軽はずみな言動に災をもたらした事を知り、恥ずかしさのあまり居た堪れなくなり、和葉の手首を掴んで教室を飛び出して人影の少ない非常階段へと場所を移した。
壁に手をもたれてハァハァと息を切らし、掴んでいた手を解いて背中越しに言った。
「……頼むよ。俺は平和で静かに暮らしたいんだ」
「じゃあ、和葉が隣で平和を祈りながら、静かに過ごせるようにお手伝いしてあげる」
「あのな……、今の話を聞いてなかった?」
思うように期待した返事が得られず、何処か会話が噛み合わない和葉に振り返り、愕然と肩を落とした。



