だが、最悪なのは髪を染められた事だけに留まらない。
更なる不幸は、瞬く間に和葉の身に襲いかかる。
今朝、二日酔いのまま装着したつけまつげは、専用のりの付け具合が甘かったせいか、目をこすったと同時に左右非対処にはがれた。
一つは右下まつげのすぐ下。
もう一つは左のほっぺた中央部分に。
その上、マスカラが落ちて目の下もパンダ状態になった上にひたすら手の甲で涙をぬぐっていた。
すると、化粧の落ちた衝撃的な顔に拓真から心無いひと言が。
「うわっ、すっげぇ顔。化粧が落ちた顔は本物の妖怪じゃん。さすが座敷童子。あはは、悪霊退散……なんてな」
空気が読めずに小馬鹿にした拓真は、和葉の目の前で軽く握った両手を左右させて、お祓いポーズをするような素振りを見せた。
妖怪
座敷童子
悪霊退散……?!
悪びれなく口にした冗談三セットは、当然癪に障った。
額にミミズ腫れのような青筋を立てた和葉は、目から鋭い眼光を放つ。
「………は? 今、なんつった? 私がこんなに落ち込んでる時に、さらに追い討ちでもかけたい訳?」
「やべっ……」
「悪霊退散? 私はあんたんちに来るようになってからロクな事がない! ネイルアートの爪を切り落とされたり、勝手に髪を染められたり。散々不幸が度重なってんのに。この私に向かってどの口が言ってんの?」
「あはは、悪ィ。つい歯止めが効かなくなって本音が漏れた」
テーブルに身を乗り出して怒る和葉に対し、身体を軽く引いて額に冷や汗を滲ませる拓真は全く反省の色を見せない。
「ほ……、本音?! さ……さすがにそれはいくらなんでも酷すぎる。……っ……うあぁぁぁん」
余計なひと言を言うまでは少し気が収まり始めていたものの、キツイ冗談によって気持ちが逆撫でされると、再び手で顔を覆って声を荒げて泣いた。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた。お前の言い分はわかったから。午後はもう農作業しなくていいから、気分が落ち着くまで部屋で休んでていいよ」
身体中の水分を絞りきるくらい涙を流したのに、拓真の口から出た提案は農作業を休ませる程度。
最後まで自分の意見を取り下げないところが、非常に頑固だ。
拓真がそう来るなら、私にもとっておきの秘策がある。
リスクには常に代償が伴うもの。
和葉は全開になっていた蛇口をひねり返したかのように荒げていた声をピタリと止めて、手で顔を覆ったまま答えた。
「じゃあ、気分が落ち着くまで拓真の部屋で休む」
「……っく、なんで俺の! 嫌だ、断る」
拓真は不機嫌にあぐらをかき、両手を組んでフンっとそっぽを向いた。



