LOVE HUNTER




記念すべき第一回目の農作業の日を翌日に控えた、土曜日のカラオケ店でのバイト中。


和葉は空のビールジョッキとグラスを下げてキッチンに向かっていると、背後から嫌な気配が襲いかかった。



「姉ちゃん。そんなにセカセカ働いていないで、俺達の部屋で一緒に歌って仲良く盛り上がろうぜ」



予感は見事に的中。
聞き覚えのある声にドクンと低い鼓動を打った。


私が苦手なヤクザ風の男性客が気付かぬ間に来店していたらしく、いつものようにホロ酔い状態のまま廊下でばったり遭遇した。

横目で奴の姿を確認すると、額に冷や汗が滲む。



手元にはトレーの上に乗ったビールジョッキが四つとグラスが二つ。
こんな時に限って両手が塞がっている。

しかも、男は壁に追いやるようにポケットに手を入れたまま身体をググッと寄せて醜い顔を近付けてきた。

男のサングラスのレンズには、困惑している顔が二つ写し出されている。



無愛想に顔を逸らしても、男は私の身体を囲むように30センチほど手前まで顔を近付ける。
酒臭い香りがぶつかると、嫌気が差すあまりに吐き気を催した。



「しっ、仕事中ですので……」

「一曲ぐらいいいだろ。俺たちの部屋で一緒に楽しもうぜ」


「申し訳ございません。そのような接客行為は一切禁じられておりますので」

「おーおー、金髪なのに真面目だねぇ。俺はあんたみたいな美人でセクシーな子がドンピシャなんだよね」



野獣のように迫り来る顔は、全身を隈なく舐め回すように見つめてきた。
エスカレートしていく不快な言動は、来客回数を重ねるごとにセクハラまがいに。



正直、クズ男が原因でいい仲間に恵まれたバイト先を辞めたくないから、波風を立てたくない。

一刻も早く逃げたいけど、トレーには大量のグラスを乗せているから思うように身動きが取れない。

恐怖で身体が震え上がる度に、グラスがカチカチとぶつかり合っている。
まるで、心の叫び声を表してるかのように……。


週末という事もあって、他の従業員も今は自分の事で手一杯に。
更に駅前という好立地なので、受付はパンク状態だ。

ヘルプを求めたくても、通路付近には誰の姿も見当たらない。





何度も何度も嫌がっているのに、どうして嫌われてる事に気付かないんだろう。
今は勤務中だから、いつものように地をさらけ出せない。



「すみません、失礼しまぁす」



和葉はくぐり抜けるように、身を小さくして男の横から逃げ出した。
トレーのグラスは何とか落ちずに持ち堪えている。



「……おいっ! おい、姉ちゃん。……おい!」



しつこく呼び止める声が背中越しにぶつかってきたけど、もちろんガン無視。
従業員という立場上、事を荒立てぬようにするのが賢明だ。