手ぬぐいでメガネの泥を拭き終わった拓真は、メガネを定位置に戻して再び手ぬぐいを首に巻いた。
非常に残念な事に、この瞬間から再び死神の仮面は装着された。
天国だった時間はほんの一瞬に過ぎない。
和葉は余韻に浸ってジーッと顔を見つめていると、熱い視線に気付いた拓真は咳払いをして迷惑そうにメガネを光らせた。
「……何見てんだよ。もう今日の作業は終わりだから一旦家に戻るぞ」
「あ、あのっ。もう一度だけ私にチャンスを……」
「は?」
「素顔が見たいから、もう一回メガネに泥を塗ってもいい?」
「あ゛あっ?! ふざけんな!」
ほんの軽いジョークのつもりが、拓真はいつも通りの鬼のような態度に。
もしかしたら、あの黒縁メガネには悪魔が潜んでいるかもしれない。
天使の笑顔を救い出すには黒縁メガネを剥ぎ取る必要がある。
だから、いつかは再びメガネを剥ぎ取ってやろうと心に誓った。
作業を終えた私達は拓真の自宅へ戻った。
借りた衣装を脱いで帰り支度を終えて外に出ると、辺りは既に真っ暗に。
空は夏空から冬空へと衣替えを始めていて、日没時間が日に日に早まっていく。
街灯はところどころ照らされていて、静寂に包まれた田舎の夜道は交通量はそこそこあるが、道の隣が畑のせいか人影は少ない。
「最近、日没が早いな。足元が暗くて危ないから、ひと気が多い明るい道まで送るよ」
拓真は度々男らしい一面を見せて、私と肩を並べて歩き始めた。
学校から拓真の家に向かう時は縦並びだったのに、今は隣に……。
畑仕事は腰を痛めて大変だったけど、拓真に言われた通りにこなしたお陰か、お互いの距離がほんの少しだけ縮まったように思えた。
なんだかんだ言っても、一人の女の子として扱ってくれるんだね。



