バレンタインを目前にした、2月上旬のある日の放課後。
和葉は今日も教室から生徒が誰もいなくなるまで、自分の机でうつぶせになっていた。
最近こんな姿が日常化している。
頭の中は拓真の事で常に目一杯に。
どうしたら話を素直に聞き入れてくれるのか。
そして、どうしたら目を合わせてくれるのか。
その狭間で揺れ動いている生まれて初めての恋。
ネックだった栞はもう別れたというのに、拓真との関係は上向きになるどころかあの頃以上に深刻な状況に。
声が聞きたい。
一歩でも近付きたい。
頭のてっぺんから足のつま先まで拓真を感じていたい……。
でも、私が傍にいたら嫌な記憶が蘇っちゃうよね。
『ごめんね』と伝えても聞き入れてもらえないし、『好きだよ』と伝えてもきっと信じてもらえない。
日を追うごとに臆病になる一方で、足がなかなか前に進まない。
心のかさぶたは回復の兆しが見えぬまま。
恋を諦めれば解決するかもしれないけど、本気の恋に溺れてしまっている分、簡単にシフト出来ない。
祐宇と凛は、昼食後も放課後も机にうずくまる和葉を見て遠目から心配している。
最近全く一緒に帰らなくなってしまった和葉。
『一緒に帰ろう』と言っても、『先に帰ってて』と、返事を聞きたくないように跳ね返してくる。
血色が悪いまま登校している上にこんな感じで言い返されてしまうと、さすがに声をかけづらい。
本当は悩みを知ってるだけに心苦しくもあった。
二人が「どうしようか」と軽い相談をしながら遠目から見ていると、和葉は椅子から立ち上がって教室から出て行った。
祐宇と凛は細心の注意を払いながら後を追う。
荷物は持たず身一つだけで何処かを目指して足を進めている。
しかし、南校舎の三階から二階に降りる階段の途中で、楽器を持った吹奏楽部の部員集団が正面からドッと押し寄せて来た。
流れに逆らうように部員達の間を抜けて階段を降りるが、大きな楽器が視界を阻む。
賑やか且つ不揃いに進められていく部員達の足取りは、徐々に和葉の気配を消した。
ようやく集団の中を抜け出したが、和葉の姿がない。
妙な胸騒ぎが押し寄せるばかりに、駆け足で二階をキョロキョロと見回しながら引き続き行方を探した。
「ねぇ、和葉はどこへ行ったのかな」
「さっきは階段をそのまま降りて行ったように見えたんだけど……」
二人は息を切らしながらあちこち駆け回ってみたが、和葉の姿は一向に見当たらない。
一人で何処かに向かったのか。
それとも、誰かに会いに行ったのか。
和葉と気持ちが噛み合わない二人は、残念ながら心の中を読み取る事が出来ない。
二人は南校舎の二階の廊下でキョロキョロしていると、凛は窓の向こう側で和葉が北校舎の扉から非常階段へ出て行く姿を目撃。
すかさず指先を向けた。
「祐宇、見て! 非常階段の一階」
祐宇も指差す方向に目線を当てると、和葉は非常階段にポツンと腰を下ろして顔を伏せて小さくうずくまった。
「あの子、どうして一人であんなところに?」
「近くまで行って様子を見てみようか」



