あいつは第一印象とは全く別人で。
俺と手を繋ぐだけでも精一杯で、瞳に涙を浮かべるほど純粋な心の持ち主。
そして、いつも自分だけを真っ直ぐに見続けていてくれた。
我慢させる事が多かったけど、それでも逆らわずについてきてくれた。
俺があいつを信じていたように、あいつも俺を信じていてくれたから……。
二人の関係が悪化したとしても、これだけは間違いない。
拓真はまるで走馬灯のように和葉との思い出が脳裏に駆け巡った。
楽しかった事も
嬉しかった事も
辛かった事も
苦しかった事も……。
和葉が隣にいるだけで自然と笑顔が生まれていた。
最終的に気持ちがすれ違ってしまったけど、出会ってからのこの4ヶ月間はかけがえのない時間を刻んでいた。
事故を起こしてからもう二度と感情に振り回される事はないと思っていたのに、和葉と過ごしていた時間は、自分らしさを存分に発揮していた。
でも、これ以上自分が傷付くのが怖いから、あいつと対等に向き合えない。
何だかんだ言って自分から逃げているだけなのかもしれない。
しかし、素直に向き合えなくても、あいつの心を傷付けないで欲しいと願っている。
一方の敦士は、拓真の気持ちを引き出す事に成功したと確信する。
だが、こんなにしっかり気持ちが整理されているのにも拘らず、自分の知らない何かが拓真の心を引き止めている。
敦士には、その足を引き止めてる何かがわからないから、素直に心を決めない拓真がもどかしい。
敦士がこうやって自分を犠牲にするのは、和葉の為ではない。
未だに未練がましい自分から卒業しようと思っていた。
だから、拓真自身に自分の気持ちに気付いてもらうまであともうひと押しだと考えた。
敦士はネクタイを掴まれてフラフラしているが、拓真の胸ぐらを掴んで引き寄せるとクールに呟いた。
「……面倒くせぇガキ」
「なにっ……」
「あんたは和葉の良いところやダメなところを余す事なく見てきているし、大切にしてやりたい気持ちがこんなにも溢れ返っているのに、どうして素直に応えてやらないの?」
「……」
「まさか……、自分の気持ちに気付いてないとでも? 俺がわざわざ悪役を買って出ないと、あんたは気持ちと正直に向き合えねぇの?」
感情の上り坂を歩き始めた敦士は、拓真のネクタイを突いて身体を勢いよくドンっと押しのけた。
すると、バランスを崩した拓真は勢い余ってそのまま二、三歩後ろに後ずさる。
まるで、和葉を巡る一対一の男同士の決闘が始まってしまったかのように、二人の間には緊迫した空気が流れている。



