LOVE HUNTER




自宅の縁側で腕を組んで立っている拓真は、畑で目をこすりながら草むしりを続けている和葉を遠目から見つめていた。

瞳の中に映し出されている間は、和葉の事だけを考えてる時間。

知り合ってから賭けで近付いたと知ったあの時の事までを思い描きながら葛藤している時間でもあった。



昼食の片付けを済ませたお婆さんは再び居間に現れて拓真の横に立つと、後ろで手を組んだまま声をかけた。



「和葉ちゃん、草むしりをしながら泣いてるみたいね」



拓真は泣いてる理由がわかっているだけに、話から逃げるように振り返って部屋を出ようとして足を進めた。

一方のお婆さんは、朝から二人の距離感を心配していて解決策を模索していた。
仲が良かったあの頃の二人を、もう一度見たいと思っていたから。



「何があったか知らないけど、暫くご無沙汰だった和葉ちゃんがわざわざここへ来てまで伝えたい話があったんじゃないかね」



お婆さんの目線は和葉へ向けたままだが、同時に拓真の心と足を引き止めている。



「話を聞いてあげないの? 二人に何かあったとしても、こうやって話をする為に来てくれたのに今朝からまともに喋ってないでしょ」

「……」


「人間という生き物はね、相手を腹立たしかったり憎らしく思っていても、簡単に縁を断ち切る事が出来ないんだよ。あんたがこうやって何かを思うように、和葉ちゃんも色々思い巡らせているんだよ」

「……」


「沈黙を続けていても解決にはならない。せめて話を聞いてあげたらどうだい? はるばる2時間かけて会いに来てくれたんでしょ」

「……俺は、あいつに話す事なんてないから」



口を尖らせた拓真は、ふてくされた態度でボソッとそう吐き出した。
しかし、お婆さんはその言い草から、なんとなく拓真が一方的に意地を張ってるのではないかと思い始めた。



「頑なに拒む理由は一体何なんだい?」

「婆ちゃんには関係ないだろ」



拓真はこれ以上突っ込まれないように予防線を張った。
今は自分の事で目一杯だから、人にわざわざ指摘されたくない。



「どうやら、私には話したくなさそうだね。でもね、私にはあの子の謝りたいという意志が伝わって来るの。あんたには見えないのかい?」

「……」


「頑固になってないで、一度真剣に向き合ってごらんなさい。それとも、あんた自身が向き合う自信と覚悟がないのかい?」

「……っ!」



俺は和葉から逃げてるつもりはないし、向き合う自信や覚悟がない訳ではない。
ただただ、これ以上の迷惑は被りたくないと。



「人間は間違いを正しながら成長をしていく生き物なんだよ。いい事と悪い事を分別しながら大人になっていく。最初から完璧な人間なんていない。だから意固地を張ってないで、時には相手の言い分に耳を傾けるのも人として成長していく過程の一つなんだよ」



……俺が耳を傾ける?
アイツは俺の気持ちを(もてあそ)んだのに、天地がひっくり返ってもあり得ないだろ。



「過去を振り返ってごらんなさい。バイク事故を起こした時、栞ちゃんは寛大な心であんたを許した。それは、あんたが連日謝意を示していたからこそ、誠意が伝わったんじゃないかね」



最近、栞のお陰で心の傷は回復しつつあったが、お婆さんのそのひと言は、過去に過ちを犯した自分と、対話を望まない今の自分を両天秤にかけているように思えた。



「栞ちゃんの身体の傷と心の傷を一度思い返してみなさい。それと同時に今の自分を考えてみなさい。そうすれば自然と答えは出て来るはずだよ」



お婆さんはくるりと振り返って拓真の横まで足を進めた。



「これ以上余計な事を言わないから、後はあんたが自分で判断しなさい」



と言い残して、隣の自分の部屋へ戻って行った。