ーー翌日、AM8:45

いつもより少し早目に登校して、ビュンビュン風が吹き荒れる学校の屋上に立った。



周りには遮るものがなく直に照りつける日差しが金髪をより一層輝かせ、背中からの追い風が髪と制服をパタパタと靡かせる。

グロスをたっぷり塗った唇には髪が吸い付くように貼り付く。
感触がちょっと不愉快。

足元には何処からか飛んで来た枯葉が、カサカサと音を立てて渦を巻いている。





朝9時から全校集会が行われる今日。
校庭には校舎から生徒達が放出されるように不揃いに集まって来た。

タイムリミットまで残り5分。
全校集会の10分前までに事を起こさないと、先生達が校庭に集合してしまう。



四階建ての校舎の屋上から校庭へと少し身を乗り出して顔を覗かせると、およそ600人ほどの生徒達が整列を始めている。

校庭を賑やかせている生徒達は、これから突拍子もなく破天荒な事態を引き巻き起こそうとしている私の事なんて当然知るはずもない。
ただただ校内アナウンスに従って行儀よく並び始めるだけ。



校庭を見下ろしていた和葉は、予想以上の頭数に怖くなって足が震えた。



「やっぱり……、やめようかな」



気持ちに迷いが生じた。
LOVE HUNTERの私が、マネーゲーム如きで華やかな人生を犠牲にしてまで好きでもない男を落とすなんてバカバカしい。

苦労知らずのまま世間を渡り歩いてきたのに、ここまでするなんてやっぱり間違っている。



……でも、最近を思い返してみれば、お金がないせいでクラブには二週間以上も遊びに行ってない。

遊びを我慢しているせいか本調子が出ない。
だから最近は不発の連続だったのかも。
クラブは唯一の息抜きの場だったのに。




和葉が夜遊び姿を妄想している中。
突然左から吹きつけた強風により髪が頬を叩きつけて、ふと現実に戻った。
チラッと手元の時計を確認。



やばっ……。
チャンスタイムはあと2分しかない。
モタモタしてる暇なんてない。



どうしよう……。

行く?
行かない?
行く?
行かない?



和葉は葛藤を繰り返しているうちに、若干逃げ腰になった。



……と、その時。
たまたま風で舞い上がってきた枯葉が、和葉目の前を横切っていく。

ひらひらと数枚舞い降りている姿が万札に見えてしまうと、気持ちのスイッチがオンへと切り替わった。