母屋を離れて向かいの畑へ。
あと数分後に拓真と顔を合わすと思うと、波打つ鼓動が身体に響き渡った。
だから、少し落ち着かせるかのように胸に手を当てた。
靴に鉛が乗っているかのように進める一歩が重く感じる。
柔らかな土のクッションは足音を吸収している。
懐かしく感じる大地の感触は踏みしめる度に自然の香りが漂ってきた。
本当は最後まで向き合う自信がない。
でも、自分は変わらなければいけない。
じゃないと、敦士のエールが無意味になってしまう。
和葉はキョロキョロと広大な畑を見回したが、畑に拓真の姿は見えない。
ひょっとしたら、隣の土地との間にある道路の手前にあるビニールハウスの中にいるのかな。
以前、冬は農作物が育ちにくいから、ビニールハウスで作業する事もあるって言ってた。
畑の右脇に二つ設置されているビニールハウスに移動すると、ビニールハウス内の人影を発見する。
ビニールハウスの手前側に到着すると、開きっぱなしの扉から作業をしている拓真の姿が見えた。
入り口に背中を向けて黙々と作業していた拓真の姿は、関係が良好だった頃と何一つ変わらない。
しかし、その当時と一つ違う点は、私との間に溝が出来ている。
和葉はビニールハウスの扉に手をかけて足を前に進ませた。
ハウス内に踏み入れる足取りがやけに重い。
目眩がしそうなほど胸がドキドキして緊張している。
そして、拓真の背後へ。
「拓真……」
和葉の小さくて弱々しい声は作業を進めている拓真の耳へ。
すると、存在に気付いて振り返った。
そこには暫く畑から足が遠退いていた和葉の姿があって、一瞬だけ驚いた様子を伺わせる。
だが、素っ気ない態度で視線を手元に移す。
「……何しに来た」
関係が悪化したあの日から、拓真は怒りが冷め止まない。
だから、顔を見ぬまま低い声でボソリとそう呟いた。
拓真の声がハウス内に響き渡った後、一瞬空気がピンと張り詰めた。
まるで嵐の前兆のような静けさに。
「ごめんね、私……」
「話なら一切聞く気がないから」
拓真はクールな表情で言葉を被せた。
あっさりと突き放されてしまったけど、これも想定内。
「うん。分かった……」
だから素直に引き下がった。
勿論、諦めた訳ではない。
今はまだチャンスが訪れてないだけ。
例え口を利いてもらえなくてもチャンスを逃したくないから、久々に農作業を手伝う事に。



