LOVE HUNTER




土曜日の朝が来た。
眠りから目覚めてベッドの上から手探りでスマホを手に取って時間を確認すると、朝6時過ぎをさしていた。


早起きの習慣が身についていたせいか、アラーム無しでも決まった時間に目覚める。
農作業をする機会がなければ、前日夜遊びで昼起きの生活を送っていただろう。


栞が農作業に参加してから畑には行ってないけど、今日はどうしてもやり遂げたい事がある。

栞が居ても構わない。
きっと、頼めば少しは席を外してくれるだろう。

これが最終的に考え抜いた結果だから、勇気を振り絞って拓真の家に向かった。



ガタン ゴトン…… ガタン ゴトン……



長い長い電車の乗車時間。
休日の上に時間がまだ早いせいか、まばらに座っている乗客。

窓の向こうは様変わりしていく景色。
足元の暖房が寒くて凍りつきそうな身体を温めている。

反対車線の電車とすれ違う際は、風圧を受けた窓ガラスのガタガタといった強い振動によってビックリして少しだけ背筋が正される。


拓真に会うのが嬉しくてドキドキワクワクしながら家に向かっていたあの頃とは違う。

今は泣きそうなほど切ない。
一つ先の駅に到着する度に不安で胸が押しつぶされていく。



これから家に行ってもきっと歓迎されない。
一体、どんな目が向けられるのだろうか。
ある程度の覚悟は決まっているものの、やっぱり怖い。



最寄り駅から田舎道を通り、約二ヶ月ぶりに拓真家の前に立って部屋を見上げた。
最後に見たあの時と同じ光景なのに随分久しぶりに思える。


また睨みつけられてもいい。
怒鳴られたっていい。
それ以上に謝りたいという気持ちの方が勝っている。



ーーそう、今日は謝りたい一心でここに来た。
今日こそは勇気を出して向き合おうと思っている。

以前畑に通い詰めていた、あの時と同時刻の午前9時。
農作業を手伝いに来ていた時と同じく再びこの地に立った。


真冬の冷たい風を頬で感じながら家の前で気合いを入れる為に震える拳に力を加えた。
今日は足がグラついても大丈夫なように、スニーカーを履いてきた。


ここに来た理由は、学校じゃまともに取り合ってもらえないから。
私達は校舎・学年・クラスが違うから、無視されたら終わり。

限られた時間内に話せないから、向き合って話すには家に押しかけるのが一番だと思った。


しかし、いざ家の前に立つと身が震え上がるほどの緊張感に包まれる。
意を決して震える指先でインターフォンを鳴らした。

ピンポーン……


少し待つと、扉の向こうには小さな人影が映し出された。
すると、お婆さんはゆっくりと扉を開けて、以前と同じく温かい眼差しで出迎えた。



「あらまぁ。和葉ちゃん、久しぶりだねぇ」



お婆さんと最後に会ったのは拓真にフラれた日。

失恋のショックでつい飲み過ぎてしまい、酔っ払って記憶がないまま家に突撃して迷惑をかけてしまったあの日以来。

和葉は普段と変わらないほっこりした笑顔を目の当たりにすると、思わず感極まって涙が滲み出た。



「あの……。最近来なくてごめんなさい」

「いいのよ、色々忙しかったんでしょ。さぁさぁ、中に上がって」



お婆さんは暗く俯いている和葉にそう言って、部屋の奥に手を伸ばした。
まるで二ヶ月の空白の時間を打ち消しているかのように優しく気遣う。

しかし、玄関から足を進ませようとしない和葉は黙って首を横に振った。



「実は今日、農作業を手伝いに来た訳じゃなくて……」

「あの子に用事があるの? もう畑にいるはずだから行っておいで」



先ほどまで緊張で身体が硬直していたが、お婆さんの顔を見た途端、少しだけホッとした。