LOVE HUNTER




栞と付き合い始めてからの日々を振り返ってみたら、一生守っていこうと心に誓っていたはずが、何故か心の眼差しは向いていなかった。

いつも心に棲んでいたのは栞ではなくて、先月裏切りが発覚したばかりの和葉。
長年友人関係にあった栞よりも和葉の方が色濃い思い出として残されている。



拓真は言い返す言葉が見つからなかった。

栞と付き合い始めてから、男として守ったり、約束や責任を取る事さえ出来ていない、口先だけの自分がそこにいる。
むしろ反省点しか思い浮かばない。



「拓真の心が向いてないならこの恋愛に意味はない。私にもプライドがあるし、これ以上気持ちをセーブし続ける毎日に我慢出来ないの。反対を押し切って家を出た時、後悔しないように大きな決断を下して来たの。振り向いてもらえなくてもダメでもいいから最後まで頑張ろうって。……でもね、途中で気付いたの。私一人だけが恋愛していても意味がないと」

「栞……」


「だって、寂しいでしょ。想っても想っても一方通行の恋なんだもん。拓真は全然幸せそうじゃない。それに、私だって一人の女として愛してもらいたかったから。人間は人形じゃないんだよ」



興奮して早口気味になっていた栞は、みるみるうちに赤面していき、瞳にたっぷり涙を浮かべながら優しく微笑んだ。



「……だから、もう別れよう」

「栞……」


「拓真が受け入れてくれた時は本当に嬉しかった。でも、付き合ってからは楽しい事よりも辛い事の方が多くて疲れちゃったよ」



溢れる感情を抑えきれなくなった栞は、肩を震わせながらクルリと背中を向けた。



「今日までありがとね。ずっと好きだったよ。…………バイバイ」



栞は溢れんばかりの想いが込み上げてくると、涙腺が崩壊してしまったかのように涙が止まらなくなった。

鼻をすすったら泣いてる事がバレるから、拓真に気づかれないように唇を強く噛み締めてその場から去ろうとした。



拓真は指摘されてようやく気付いた。
和葉の事を考えてる時間は、栞を一人ぼっちにしていた時間だった事を。

言われてから初めて反省点が浮かび上がった。


しかし、傷付けてしまった時間はもう取り戻せない。
そして、四六時中裏切られた事以外考えられなくなっている自分には、これからも栞に温かい思い出を作ってあげる事が出来ないと思っている。

だから、去り行く背中に向かって最後の気持ちを吐いた。



「長年想いを寄せてくれたのに気持ちに応えてあげられなくてごめん。今日まで毎日傷付けてごめん。一つもいい思い出を作ってあげられなくて……、ごめん」



背中から届いてきた、拓真からの最後の言葉。
皮肉にも、ようやく拓真が自分の事を考えてくれたと思った瞬間だった。



勿論、期待していた答えではない。

聞きたかったのは『お前の気持ちに応えてあげれなかった』とか『ごめん』じゃない。
『愛してる』じゃ、今の自分には贅沢だから、せめて『別れたくない』のひと言だけでもいいから言って欲しかった。



栞は最後の賭けに敗北した。
顎からポタポタと涙を滴らせて寂しそうに唇だけ小さく微笑むと、そのまま振り返ることなく無言で走って行った。