いよいよ年度末の新学期を迎えた。

クリスマスを終えてから実家に帰省していた栞は、新学期の今日およそ2週間ぶりに拓真と会った。

その間、一人で考える事が沢山あった。
幸せの仮面を被り続けている栞は、和葉と同じように本音を語れる人がいなくて思い悩んでいた。



拓真の心の中に自分がいないと実感したあの日から、私達は形だけの恋人関係に思えていた。

学校から一緒に帰ってる今この瞬間ですら、彼の気持ちがわからない。
『私の事、好き?』などと言った、気持ちを確認し合うような会話なんて程遠い。


昔は正直にぶつけられた感情が、今は怖くて表に出せない。
これが本来の幸せかと自問自答を繰り返していた。



冬休みの間、近況のLINEを送り続けたけど返信はなかった。

元々あまり返信しないタイプだけど、普段だったら5回に1回くらいの割合で、10文字程度の短い返事はあった。
でも、機嫌が悪くなってからはまるでスマホ自体を放置しているかのように未読状態が続いている。


それに加えて2週間ぶりに会ったというのに、2週間前と対応は同じ。
拓真は自分の事を話してくれないから、どうしてここまで苛立っているのか未だに不明。



「拓真。ここ最近機嫌が悪いし、ずっと様子がおかしいよ。暴走族時代に戻っちゃったみたい」

「別に何も変わってないよ」



こう言ったやりとりですら、素っ気ない返事。
顔色を伺う日々を送っているうちに、自然と心が窮屈になっている自分がいる。



「そうかな……。最近拓真が遠い存在に感じるよ。話をしていても上の空かと思えば、急に不機嫌になったり、気持ちが不安定になっているし。それに、ちっとも笑ってくれなくなった」



栞は重圧感に耐えられなくなり、ピラミッドのように積み重なっていた本音が思わず漏れた。



「そう思うなら少し放っておいて欲しい。俺も考えたい時くらいあるし」



駅に向かう通学路で不機嫌にそう言った拓真は、肩で風を切って一歩先を歩いた。



結局、悲痛の叫びは届かなかった。
そして、拓真は自分の事しか見えていないと……。



栞はその場に足を止めた。
目線の先の背中はだんだん遠くなっていく。
こうやって離れ行く背中のように、二人の心の距離は離れていく一方。



突き放されるのはもう何度目かな。
努力を重ねても冷たい態度に我慢する日々。
そして、誰からも応援されない恋に苦しんでいる。

私の恋が楽勝だと嫌味を加えてきた和葉さんの男友達の言葉も重くのしかかっている。



正直に言えば、誰もかも敵だ。

和葉さんも。
和葉さんの味方をしている男友達も。
私を和葉さんと勘違いしてしまう拓真のお婆さんも。

そして私に一切目を向けてくれない拓真も。



苦境に立たされても気持ちが崩壊しないように、毎回必死に立て直している自分がいる。

私はこんな虚しい恋愛を望んでいた訳じゃないのに。