新年を迎えた。
年越しそばを食べた後に部屋でぼーっとテレビを観ていたら、年越しのカウントダウンが始まっていた。
大晦日の夜、両親が久々に激しい喧嘩をしていた。
喧嘩と言っても、今までは母親が一方的に感情をぶつける事が多かったけど、今回は父親も対抗しているように聞こえた。
その時は自分の部屋にいたけど、内容までは聞こえて来なかった。
だけど、母親がしきりに繰り返していた『時間がない』という言葉だけは聞き取る事が出来た。
母は以前も同じ事を訴えていた。
でも、私にはその言葉の奥に隠されているものが一体何なのかわからない。
どうしてそんなに気が焦ってるのだろう。
しかも以前と同様、切迫したような口調だったから、きっとその何かは私の想像以上に深刻な問題なのかもしれない。
ーーそして、元旦の朝。
一階のダイニングに降りていくと、父親が用意したお雑煮とおせち料理がテーブルの上に広げられていた。
生まれて初めて目にした関東風のお雑煮は、小松菜、人参、しいたけ、ハマグリ、鶏肉、お餅が入っていて、蒲鉾といくらと三つ葉と柚子の皮で彩りよく飾られていた。
海のものと山のものが両方合わせ入った豪華盛りのお雑煮。
料理をしない母親の元で育ったから、このお雑煮が人生初となる。
家族三人席に揃い、新年の挨拶と食事の挨拶すると、和葉は祝い箸を割って早速汁物から手をつけた。
和葉の食欲はいっときは回復したが、拓真と関係悪化後に再び食が細くなってしまった。
しかし、父親は和葉の事情を知ってるだけに、少しでも栄養を摂って元気になるように、前日から腕をふるって仕込んでいた。
ところが、どんなに豪華な料理を並べても、和葉の箸の進みが悪い。
このままでは、また以前のようにガリガリに痩せ細って体力が落ちてしまうかと思い、酷く心配していた。
父親は、あまり食に興味を示さない和葉の姿を見て小さなため息をついていると、隣に座っている母親は昨日から不機嫌な気持ちを引きずったまま和葉に対して蒲鉾を口にしながらボソッと呟いた。
「和葉。来年のお正月は家族三人で食卓を囲んでないから、今はしっかり食事を楽しみなさい」
「え……」
母親は幼い頃から娘に信用されていないから、相談というものをされた事がない。
だから、食事の進みが悪い和葉に手を進めるよう口出しすること自体も非常に珍しい。
一方の和葉は、母親の意図がつかめない言動に衝撃を受けた。
「お母さん……。来年のお正月は家族三人で食卓を囲んでないって、一体どーゆー意味なの?」
母親が変な事を言い出だす前までは拓真の事で頭がいっぱいだったけど、今は母親の話に疑問が湧き起こった。
「……葉月」
「別にいいじゃない。本当の事なんだから」
「その件については昨晩散々話し合ったじゃないか。今はまだ話すべきじゃない」
あっけらかんと答える母親に対して、父親は表情を強張らせながらゆっくりとした声で口止めしようとしている。
二人の態度は明らかに対照的で、昨日の喧嘩の延長線上のような雰囲気を醸し出していた。
二人の様子からすると、何となく昨日の喧嘩の内容と関連性があるような気がしてならない。



