凛「……で、その後どうなったの? 結局、拓真は落ちたの? 落ちなかったの?」
和葉「それは、その……」
冗談半分で興味を沸かせる凛に対して、いつものように言葉を濁そうとした。
ーーしかし、その時。
ドサッ……
靴を履き終えたばかりの三人の背後から大きな落下音が飛び込んできた。
三人同時に後方へ振り返ると、そこには……。
「俺が落ちたら三万円って……、一体何の話?」
ショックを受けて言葉を詰まらせている拓真の姿が。
拓真のカバンは床に落ちていた。
恐らく先ほどの落下音はカバンを落とした音だと思われる。
時、既に遅し……。
拓真は三人の会話を全て聞き取っていた。
ドクン………
ドクン………
ドクン………
胸に強く刻み始めた鼓動は、まるで誤作動を起こしてしまったかのように鈍いを響かせている。
頭上からは氷水を浴びたかのようにサーっと血の気が引いていく。
う……そ……。
今の会話……、聞かれた?
この話だけは本人の耳に入れたくなかったのに。
和葉は予期せぬ事態に見舞われると頭が真っ白に……。
本当は一刻でも早く弁解しなければならないが、猛烈なショックを受けてしまったせいか、そこまで考えが至らない。
冷たく凍りついた現場はまるでスローモーションのよう。
拓真は和葉が近付いた目的を知ると、次第に事態の深刻さが現実味帯びて胸が抉られるような不快感に見舞われた。
「お前は友達から三万円の金を手に入れる為に、俺に近付いたって事だよな」
拓真は腹の底から怒りがこみ上げてくると、ワナワナと身震いさせながら殺気立つ目を向けた。
そこに、情という温もりは感じられない。
嫌気に満ち溢れている冷たい目に釘付けになってしまった和葉は、顔面蒼白のまま震え上がった。
「あっ、あのっ……。その話は……」
「赤の他人のお前が急接近してきた本当の理由は、金目的だったって事ね」
「拓真……、お願い。今からちゃんと説明するから、落ち着いて私の話を聞いて欲しい。確かに最初は賭け金目的で近付いたけど……」
ぎこちなく声を震わせている和葉の口から賭け金目的という言い逃れようのない言葉が飛び出すと、拓真は感情を抑えきれなくなって鬼の形相で睨みつけた。
和葉はまるで死刑宣告を言い渡されてしまった直後のように、ショックでそれ以上の言葉が喉の奥で詰まっている。
隣にいる祐宇と凛はこの件の首謀者ではあるが、二人の関係についてはノータッチだったので動向を見守る事しか出来ない。
拓真は苛立ちがピークを迎えた途端、耳を傾ける気が失せてカバンを拾い上げると、不機嫌な足取りで和葉達の脇を通り抜けた。
和葉はすれ違った瞬間、短い髪が追うように後ろに靡く。
同時に香りがぶつかると、和葉の胸は切り刻まれるように痛くなった。
三人の元を通り過ぎた拓真は、苛立ちを逃すかのように下駄箱を勢いよく蹴り上げてから校舎の外へ。
どうしよう……。
まさか、三カ月前の浅はかな考えが今になって拓真を傷つけてしまうなんて。
最初に賭けにノったあの時は、こんな最悪な事態を想定してない。
恋に落ちてからは振り向いてもらうのに一心で、賭けの事なんて忘れていた。
でも、そんな自己都合なんて拓真に伝わるはずがない。



