そっと唇を離れて目線を合わせると、拓真は目を驚かせていた。
まるで時が止まってしまったかのように……。
その表情を見た瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられた。
きっと、恋人のキスはこんな程度のものではない。
もっと熱く。
恋に焦がれ。
二つの気持ちが一つに重り合って。
胸がドキドキして。
何度も何度も、やみつきになるくらい唇を重ね合いたいって思うもの。
繋がり合ってる瞬間は、世界一幸せだと高揚感に浸れるもの。
今みたいに涙が出そうなくらい悲しいって思ったりしないもの……。
表情一つに心狂わされた栞は、瞼を軽く伏せて涙で目元を光らせると、拓真は首を傾けて顔を覗き込んだ。
「栞……?」
まるで事故でも起こったかのような問いかけに温度差を感じた。
顔を見上げて再び拓真と目を合わせて手の甲でゴシゴシと涙を拭う。
「あはっ、いきなりキスしたから驚いちゃったよね。……でも、いまキスがしたかった。……いきなりごめん」
「あ、いや。ちょっとびっくりして……」
そう言う表情は平行線のまま。
私は一人で恋愛に盛り上がっているように思えて虚しさの嵐が吹き荒れた。
「外を眺めていたみたいだったけど、一体どこを見てたの?」
今にも胸が押しつぶされそうだけど、微妙な空気から脱する為に話題を変えた。
「冬の景色を見ていただけ」
拓真は先ほどのキスを忘れてしまったかのように無表情でそう言うと、荷物を背負って教室から出て行った。
キスしない方が良かったかな……。
タイミングを見計らないでキスをしたから、機嫌を損ねちゃったのかもしれない。
栞は思い切った行動に後悔してしまうくらい、やるせなさを感じていた。
教室にポツンと取り残されると、拓真が先ほどまで見ていた窓ガラスに片手を添えて外の景色に目を向けた。
ところが、窓の外の向こうには和葉と敦士が仲良くじゃれ合いながら渡り廊下を通り抜けている。
その光景を見た瞬間、拓真が眺めていたのは冬の景色ではなくて、和葉という現実を知った。



