LOVE HUNTER



昼休みに和葉と敦士はいつものようにふざけ合いながらお弁当を持って屋上に向かっていた。
北校舎と南校舎を結ぶ渡り廊下を歩いていると、北校舎側から拓真と栞が肩を並べながら向かって来る。



まさか、こんなタイミングで会うと思わなかった。
何故なら、余程の用事がない限り北校舎の人間が南校舎に足を踏み入れる事はないから。



二人に会ったのは、拓真達が付き合い始めた三週間前に校門でバッタリ会ったあの日以来。
だから、二人に会わない間だけは気持ちに激しい浮き沈みのない生活を過ごしていた。



拓真達は二人とも手元に小さな袋をぶら下げてるから、恐らく中庭でお弁当を食べるつもりだろう。
中庭へ繋がる出入り口は南校舎のみ。
北校舎の人間は渡り廊下を使わなければ中庭に出れない。



両者はおよそ8メートルの付近でお互いの存在に気付いた。
それぞれがそれぞれの思いを抱えた瞬間、笑顔は消失した。



和葉はジェットコースターの頂点から下り部分に差し掛かってしまった時のような恐怖で足元がすくむ。
足を一歩一歩進める度に胸も苦しくなっていく。

この瞬間がスローモーションのように長く感じるのは何故だろう。



お互いの距離が縮んでいく度に、鼓動がドクンドクンと激しく波打つ。
直接目を向けなくても、心の目線が拓真に張り付いている。

気を逸らそうとしても、心が思うようにいう事を聞いてくれない。



お互いはそれぞれの目的地に向かう為に口を結んだまま足を運ばせた。
徐々に距離が近付いてくると、すれ違いのカウントダウンが始まる。

そして、緊張の波はいよいよピークに……。


お互いの距離まで、あと三歩……二歩……一歩……。



フワッ……



まるで赤の他人のようにすれ違った瞬間、肩までの黒髪の毛先が(なび)いた。


しかし、お互い声をかける事はない。
それぞれ隣にいる相手と共に無言のまま足を進めている。
香り同士はぶつかるのに、私達の気持ちは一切混じり合わない。



拓真は横一直線に並んだ際に和葉を横目で見たが、和葉は気付きつつも俯いたまま。


栞自身も、異様な雰囲気を察して声をかけない事に。
敦士は心配そうに和葉に目線を当てたまま、黙って足を進めている。



声をかけない。
顔も見ない。
まるで赤の他人のような私達。

以前は毎日のように顔を合わせていたのが嘘のように……。



すれ違った際に拓真の香りが漂うと、和葉は過呼吸になりそうなほど胸が苦しくなった。
それは、まるでガラスが粉々に砕け散りそうなほどの強い衝撃だった。

10秒にも満たないほど短い出来事だったのに、すれ違った瞬間はそれ以上長い。



背中に気配が感じなくなると、和葉は足を止めた。
敦士もそれに気付いて二歩先で足を止める。

和葉は俯いて胸に拳を当てたまま目頭が熱くさせた。



これは、嫉妬かもしれない。
拓真の栞が隣に居るだけでも嫌だ。
あんなに辛い失恋を経験しても気持ちが健在なのかな。


もう忘れなきゃいけないのに。
こんなはずじゃなかったのに。

拓真と離れてから気持ちは落ち着いていたと思っていたのに、 未だに気持ちのコントロールが利かないなんて。



和葉は荒れ狂う感情に全敗して暗い声でポツリと伝えた。



「ごめん、気分が乗らないから今日は一人でお昼を食べるわ」



瞳から輝きを失わせると、パタパタと上履きの音を鳴り響かせながら敦士の元を走り去って行った。