「うっ……。でも、それでもいいから教室に戻らないと。だから、私のパンを早く返してっ! こんな意地悪をするなら、遠い将来敦士のところに化けて出ちゃうからね!」
「ははっ、……それって脅迫のつもり? 相変わらず脳内レベルが低いな。まぁ、そこも可愛いところだけど」
「ねぇーえぇ! 冗談抜きで早くパンを返して!」
「だぁ〜めっ! ブツクサ言ってないで大人しく着いてきな」
敦士はそう言うと、再び屋上方向へ足を進めた。
和葉は横からジャンプを繰り返してレジ袋を取り返そうとするが、何度もジャンプをしているうちに軽いめまいがした。
連日のストレスで寝不足が重なっていた事と、空腹と栄養不足が積み重なっていたせいですっかり体力が落ちていた。
そして、フラついていた足がもつれると、最後にジャンプした際に身体が敦士へと倒れ込む。
「うおっ!」
「ひゃっ!」
ドシン……
よろけた勢いで身体が押された敦士は尻もちをつき、その上から覆いかぶさった和葉の身体は敦士の胸の中に。
「イテテ、ごめん。無事?」
和葉はそう言って即座に上半身を反って敦士の胸から離れてた。
ところが、豊満な胸が離れて身体を起こしたと同時にフェミニンな香りが捲き上がった瞬間、下敷きになっていた敦士は頬がカァッと赤面した。
「俺は大丈夫だけど、……お前は?」
「私はクッションがあったから平気」
「……あぁ。クッションって、俺か。(お前の巨乳がクッションなんて言ったら、瞬殺されるかも)」
和葉は敦士の上から降りて立ち上がると、敦士の左腕を引っ張って身体を起こした。
すると、意中の相手の和葉と一瞬だけでも抱き合えてテンションがMAXを迎えた敦士は、指先に巻いたレジ袋を回しながら和葉の顔を覗き込んだ。
「俺らあんな所で抱き合ったから、デキてるって噂されちゃうかも」
「そんなの嫌。あんたと噂になりたくない」
「まぁ〜たぁ〜。イケメンギタリストと噂になりそうで嬉しいクセに照れんなよ」
和葉は意地悪を言いながら横から肘突きした敦士にカチンとくると、腕に向かってグーでパンチ。
「何がイケメンギタリストよ! 調子に乗らないで」
「イテッ……」
「しかも、自分でイケメンって言うなー! さっきから笑えない冗談ばかり言って、いい加減目を覚ませ!」
「イテッ、イテテ……。グーで腕を殴るなよ。暴力反対」
「じゃあ、次はチョキで目潰ししてやるっ」
「おぉっ、怖っ。じゃあ、お仕置きとしてお前のパンは一生返してやんないから」
「さっきからどうしてそんな意地悪なのよ。コイツめっ!」
二人は照れ隠しでふざけ合いを始めたが、周りから見ると仲の良いカップルのよう。
今朝は暗く気分が沈んでいた和葉だが、敦士のパワーに振り回されてるうちに気が紛れて笑顔が生まれていた。
二人は追いかけっこをしているかのように、走り回りながら仲良く屋上へと向かって行く。
ーーしかし、ちょうどその時。
教室の窓際の席で昼食をとっている拓真は、たまたま目線の先の渡り廊下で、和葉達二人の仲睦まじい様子を一部始終捉えていた。
心に小さな漣が立ちながらも、二人の姿が建物の奥に消えて行くまで静かに見つめていた。



