昼休憩を知らせるチャイムが鳴り、教師が教室から出て行くと、教室内は一気に騒々しくなった。
和葉は今朝コンビニで購入したパンが入っているレジ袋をカバンから取り出した。
普段は父親の手作り弁当だが、今日から暫く父親は地方へ出張へ行き、当分の間はコンビニ弁当に。
すると、和葉のクラスへ潜り込んだ敦士は和葉の机の前に立つと、レジ袋をヒョイと取り上げてニコッと微笑んだ。
「……さ、行こっか」
「え、何?」
「一緒にメシ食おう」
「えっ! なにっ? ちょっと、敦士! 待ってよ〜」
敦士はレジ袋を高々と持ち上げて、鼻歌交じりで教室を出て行き、和葉は焦って後を追った。
敦士の右手にはレジ袋。
そして、左手には黒い袋に入ったお弁当箱らしきものを持っている。
廊下を先行く敦士は時たま後ろを振り返りながら、和葉の手の届かない所までレジ袋を持ち上げてプラプラと左右させる。
「おチビさん、悔しかったら取ってみてごらん」
今日の敦士はヤケに挑発的。
恐らくふざけ合いたいのだろう。
今はそんな気分じゃないけど、レジ袋は返してもらわなければならない。
「和葉様がそんな姑息な手にのると思う?」
和葉は鼻であしらい、一瞬諦めたような素振りを見せた。
しかし、これは作戦。
一旦油断させておいて、気の緩んだ隙にレジ袋を取り返そうとして思いっきりジャンプした。
ところが、ジャンプしたところまでは良かったが、和葉には最大の欠点があった。
身長は153cmしかなくて小柄。
レジ袋を高く掲げる敦士の前でジャンプを何度も繰り返しても、175cm超えと思われる長身敦士の手に届くはずがない。
もはや、このジャンプは無意味という事。
「ジャンプをしても全然レジ袋に届かないじゃん。もうっ、早く私のお昼ご飯を返してよ!」
「いいよ、返してあげる。でも、屋上に着いたらね。それまではだーめ!」
「どうして屋上なの? 屋上なんて行ってたら、友達がご飯食べ終わっちゃうよ」
「いーの! 俺、彼女達にお前の事を頼まれたから」
「……へ? どーゆー事?」
「お前の友達ってさ、美人なだけじゃなくて友達思いなんだね。今朝俺のクラスまで来て、『ここ最近和葉の元気がないから、お昼を一緒にして悩みでも聞いあげて』ってさ」
「え……」
「まぁ、俺は三人組の中でもお前がダントツでタイプだけど」
「もう、やめて」
今朝は保健室で横になっていたから、二人が敦士のところに出向いた事なんて知らなかった。
きっと、私が悩みを相談しなかったから、敦士になら口を割るかと思ったのかもしれない。
いま事実を聞かなければ、この先も知る事のなかった友達からの心配り。
一緒に飲みに行った金曜日。
そして、体調不良で保健室について来てもらった今朝。
祐宇と凛の二人は、一人きりで殻に閉じこもっている私を救い出そうとしてくれている。
和葉は二人の気持ちを知らされて口を黙らせていると、敦士は再び背中を向けて屋上へと足を進ませた。
「ほら、屋上行くよ〜。早くしないとこのパン食っちゃうよ」
「待ってよ……」
和葉は敦士の後ろからブレザーの裾を引っ張って屋上へ向かう足を引き止めた。
「何?」
「あの……さ。好意は有り難いんだけど、体調が良くないから敦士と一緒にお昼ご飯を食べれる気分じゃないんだ」
今朝から気分は最悪だし、楽しくご飯を食べれるような元気もないから、いつも通り友達と一緒に食べるのがベストだと思っていた。
「じゃあ、一人きりでメシ食うの? 彼女達は俺に託したから、教室に戻ったとしても仲に入れてくれないよ。二人は両手を合わせまでお願いしてきたから」
得意げな表情で見下ろしてきた敦士からは、意地悪な返答が届けられる。



