人生初の失恋で情緒不安定になっている和葉は、悪魔の言葉を囁く過去の自分の幻覚症状と戦っていた。
拓真との恋を今からどうする事も出来ずにやきもきしていると、食事をしている手が止まって悔し涙をポロポロと流した。
二人は和葉の異変に気付くと、思わず手を止めた。
「……大丈夫?」
寂しい顔をしたまま一点を見つめながら涙を流す和葉に対して、拓真は隣から心配の声を届けた。
すると、和葉は幻覚症状から解放されてハッと我に返る。
……私、もうここには居られない。
この場所は昨日から……、ううん。
きっと、拓真に出会う前から栞の場所になると決まっていた。
友達程度の私が来るような場所じゃない。
だから、もう家に帰らないと……。
「ごめん、やっぱりもう帰るね」
和葉はポロっと顎から涙を滴らせて、持っていた箸と茶碗をテーブルに置いてスッと席を立った。
その瞬間、拓真とお婆さんは同時に顔を見上げる。
「……和葉」
「お邪魔しました」
言葉をかぶせるように挨拶してから二人に背中を向けて、部屋の隅に置いていた荷物を持って早々と部屋を飛び出した。
様子が気になって仕方ない拓真は箸を置いた後、テーブルに片手をついて立ち上がった。
「ばあちゃん。……俺、あいつんトコ行ってくる」
「あぁ、行っておやり」
拓真は既に玄関を出て行ってしまった和葉の後を追った。
私……。
フラれたショックで頭がおかしくなっちゃったのかな。
酔っ払ったまま拓真家を訪れて真夜中に襲撃しただけでも尋常じゃないのに、幻覚症状が出るほど二人の仲を邪魔したいって思っているのかな。
だから、昔の自分が今の自分の首を締めているのかな。
最低最悪。
栞の気持ちも考えずに、拓真を奪う事しか考えていないなんて……。
二人は昨日恋人になったばかりなのに。
家を飛び出した和葉は涙を拭いながら全速力で走ったが、二日酔いの身体と12センチのピンヒールで走っていたせいか、後から追いかけて来た拓真にあっさり捕まった。
「ハァ……ハァ……、待てよ。食事中に突然泣き出して、一体どうしたんだよ」
拓真は荒く息を切らしながら右手首を掴み上げた。
振り返った和葉は手を振りほどこうとしたが、拓真の力には敵わない。



