ところが、拓真と話しているうちに栞の顔がぼんやりと思い浮かび始めると、急に拓真が憎くなり始めて、笑顔から怒った顔へと表情が180度変貌した。
「あんたさ、年下のガキだからしょうがないと思ってるけどぉ……、本っ当に女の気持ちをわかってないんだよねぇ〜」
和葉は急に低い声を出すと、スイッチが切り替わってしまったかのように態度を急変させた。
一方の拓真は、豹変した和葉についていけずにポカンと口が開いた。
「は……?」
「『は……?』じゃねぇだろ。すっとぼけてんじゃねぇよぉぉ。この超絶美人の和葉様を差し置いてぇ、後から現れた栞と付き合うなんてどうかしてんじゃないのぉ? 和葉があんたに冷たく突き返されても、意地悪を言われ続けても、泣き言も言わずに根気よく何度も何度も告ってんのにさぁ〜」
和葉は平和に笑っていた先ほどとはまるで別人のように、はんにゃのよう表情を向けた。
しかも、既に記憶がないから怖いものはない。
和葉の口から本音が吐き出された途端、我慢に塗り固めてられていた鋼鉄の仮面がポロポロと剥がれ落ちた。
もはや、感情の波は度を超えたショックと酒に溺れたせいでコントロールが出来ない。
「どうして和葉と付き合わないで栞と付き合うのよぉぉ……。この私があんたに何度も何度も『好き』だって言ってるのにぃ……」
「だから『ごめん』って、本気で謝ったんだけど……」
声を荒げながらグイグイと詰め寄る和葉は、驚異的なスピードで口が動いてしまう。
「はぁああ? 『ごめん』じゃねーよ! 何でもかんでも頭を下げりゃあいいってもんじゃないんだよ。人一倍繊細で精密なガラス製で出来てるハートが傷付いてんだよぉ……。あんたが私の初恋相手なんだよ。あんたに出会ってから立派に恋をしてきたからあぁぁ……」
和葉は拓真の胸ぐらを掴んで、赤い顔で瞳を涙で潤ませながら今の想いを吐き出した。
少々手荒な手段だが、和葉のひと言ひと言は拓真の胸の中の的に向かって一本一本放たれていく。
昼間に別れ言葉を口にした時とはまた違う別の感情が激しくぶつけられた瞬間であり、二つの感情にダブルパンチを食らった気分に。
「和葉……」
「拓真なんてっ……、拓真なんてっ……もう大嫌いなんだからぁあ! ばっきゃろおぉぉぉお〜〜! もう二度と手作り料理を食べさせてあげないんだからぁぁぁあ」
最後の叫び声は、まるで犬の遠吠えのように近所中に響き渡っていく。
ちなみに最後に言っていた手作り料理とは、拓真家で昼食として作ったチャーハンの事。
いつしか和葉の中でチャーハンが美化されていた事は知るはずもない。



