三人で久々に居酒屋でお酒を飲んだ。
いっぱい笑っていっぱい喋ってと、楽しい気分が続いていたせいか、何のお酒を何杯飲んだかマトモに覚えていないほど。


会計を済ませて店を出ると、千鳥足になっていてピンヒールがバランスを崩して転倒しそうに。
しかも、驚くほどにしゃっくりが止まらない。
まるでコントに出てくるオヤジのように。



和葉「……ひっく。凛ってさぁ〜、双子だったっけ?」

凛「はぁ?!」


和葉「凛の隣にいる人が同じ服着ているから、どっちが凛だかわからなくなっちゃったぁ〜。もう半年以上も友達なのにさ。あはは……、ひっく」

凛「あんた酔っ払って目が霞んでるんじゃないの? 私は世界にたった一人しかいないけど」



和葉は物が二重に見えてしまうほど酔いがひどくろれつが回らない状態で、右に左にと身体をフラフラ揺らしながら凛に指をさしてケタケタと笑った。


だが、悪夢は突然やってくる。


まるで胃の中に手を突っ込まれてぐるぐるかき回されてしまったかのように、急に吐き気がもよおしてきた。

時たま気持ち悪そうに口元を押さえている和葉を見た祐宇と凛の二人は、お互いの顔を見合わせてヒソヒソ話を始めた。



凛「和葉、ちゃんと家に帰れるかな」

祐宇「私、途中まで同じ電車だから様子を見ておくね」


凛「うん、お願い」



駅の改札広場で和葉の帰りを心配する中、全身に冷や汗をかいて口元を押さえている和葉は、既に吐き気の限界を迎えていた。



和葉「……ひっく。ゆぅ〜う〜。トイレで吐いてスッキリしてから帰る事にするぅ。電車の本数が減って来たから、私を待たないで先に帰ってて。うっ……、うっ……」

祐宇「でも……、和葉がちゃんと帰れるかわかんないからトイレも一緒に付き添うよ。電車の1本や2本なんて変わらないし」


和葉「い〜の、い〜のっ。しばらくトイレにこもりたいし、ここからは一人でちゃ〜んと帰れるからぁ」



目が座った状態で身体を揺れ動かしている和葉の言葉に説得力はない。
賛同出来ない二人は、なかなか首を縦に振らない。

しかし、現実は終電間近で電車の残り本数が僅かに……。

しばらく電光掲示板と睨めっこしていた凛は、諦めがつかぬまま和葉の顔を覗き込んだ。



凛「ねぇ、和葉。祐宇がいなくても、ちゃんと一人で電車に乗れるの?」

和葉「ひっく……。だぁ〜いじょ〜ぶぅ」

祐宇「気をつけて帰るんだよ。金曜日の夜だし危ない人多いんだから」


和葉「わかってふ……。ふ……んふふ、ひっく」

凛「和葉をこんな状態で一人で電車に乗せて平気なのかな……」



渋々了承した祐宇と凛だが、和葉から離れてからも何度も振り返るくらい心配しつつも、最後は本人に任せる事に。



んふふ……。
私、いっぱい飲んで気分がいいんだから。
大丈夫、だいじょーぶ!

ワインを2本飲んでも意識はしっかりしてるし、一人でもちゃんと家に帰れるんだから……。



和葉はトイレ前から両手を振って二人を見送った後、トイレに駆け込んで胃をスッキリさせてから一人でホームに向かった。

すると、階段を上ってる最中ホームに電車が到着している事に気付き、焦りながらもつれかかっている足を地面に叩きつけて電車に乗り込んだ。

ギリギリ間に合ったところで扉は閉ざされていき、ガラ空きな席に座る。
目を閉じた直後から眠りについてしまったようで、そこからの記憶が一切なくなってしまった。



向かったホームは合っていた。
しかし、終電前で焦っていたという事もあって、乗り込んだ電車がどこ方面行きかという肝心なところを見逃していた。

和葉が駆け込んで乗った電車。
それは、行き先が途中から枝分かれして、自宅方向とは違う方面に向かう電車であった。