お互い口を塞いでから三分くらい経過した。
和葉は涙を流したままだが、拓真の手は頬からスッと離れて行く。
「ごめん……」
拓真は三度目の『ごめん』を伝えた後、和葉から目線を外したまま頭をヨシヨシして去って行った。
結局、何度も聞いた『ごめん』に打ち勝つ事が出来なかった。
もう、これ以上すがりつけない。
いまは立ってるのが精一杯で、拓真の背中を追いかける精力すら残されていない。
だから、最後は目で背中を追った。
振り返ってもらえるはずもないのに、涙で滲んだまま小さくなっていく姿をただ見つめる事しか出来なかった。
こうして、生まれて初めての恋は見事に惨敗して、幸せだった時間にピリオドを打った。
最初は苦手だった畑仕事を毎週末に手伝いながら、毎日仲良く寄り添うように過ごしていても、栞という台風のような脅威的存在には敵わなかった。
もし、拓真と出会う前の過去の自分に会う事が出来たら、迷わずに伝えたい言葉がある。
『拓真に近付いてはいけない』
私達は出会わなければ、こんな気持ちを知らずに済んだ。
一番最初に付き合った彼氏なんて、名前を思い出せないくらい印象が薄かったのに、本物の恋は我を忘れてしまうくらい人生をかき乱されてしまった。
拓真を知る前までの自信に満ち溢れていたプライド高い私は、いつしか不器用な恋愛初心者だということに気付かされた。
拓真を失ったと思った瞬間は本当に怖かった。
もう二度と触れてもらえないと思ったら、心が死んでしまいそうに。
宝のような輝かしくて思い出深い拓真との二人きりの時間は、もう二度と帰って来ない。
空が青く見えていたのは。
幸せを目一杯噛み締めていたから……。
空の色を感じなくなったのは。
自分に僅かな希望すらなくなってしまったから……。



