拓真が栞の告白を受け入れた同日。
失恋して落ち込んでる私に更なるショックが訪れた。
私は人生初の失恋によって、いつ倒れてもおかしくないほど憔悴していた。
頭の中には、嬉し涙を流す栞の姿が思い描かれている。
憎くて悔しくて仕方ないけど。
これが夢であって欲しいと何度も何度も願っているけど、これは夢じゃない。
今日は一人で帰りたい気分だったから、放課後机で暫くうつ伏せ寝していた。
教室から人の気配がなくなると、フラフラとした足取りで下駄箱へ向かう。
靴を床に落下させるように雑に置いて靴を履き替えていると、何故か目の前に人影が映った。
ふと見上げると、そこには拓真が。
逆光を浴びてるせいか表情がよく見えない。
「あのさ、いま時間ある? 話がしたいんだけど……」
本当は全然良くないけど、いつも通りに振る舞った。
「うん、いいよ」
こうやって会話するのは久しぶりなのに、その話題に触れない。
今はそれが重要じゃないと見なされている。
無言の背中を眺めながら連れて行かれた場所は、昼間栞が告白した体育館裏。
よりによって、どうしてこの場所なの……。
胸が引き裂かれそうな想いをしながらも、彼が何を伝えようといるのかがわかっている。
栞の彼氏になったばかりの拓真。
その姿を瞳に映しただけじゃ、普段と何一つ変わらない。
しかも、今は物凄く久しぶりに一人。
きっと大事な話をしたいから、栞には先に帰ってもらったのだろう。
それとも、話が終わるのをどこかで待っているのかな。
どっちにしても、嫌。
栞も拓真も憎くて憎くて仕方がない。
和葉は胸が苦しくて、顔を真正面から見る事さえ出来なかった。
「……なに?」
無愛想に口を開いたけど、当然拓真の話を聞く気はない。
その上、何も知らないフリをしなければならない。
体育館裏に連れて来た拓真自身も気まずい雰囲気を醸し出している。
敢えて顔を見ていなくても、静まり返った場の空気でわかる。
「俺、栞と付き合う事になったから伝えなきゃと思って」
残酷な事に、耳を塞ぎたくなるような現実は本人の口から言い渡された。
私の気持ちを知ってるなら、少しは配慮してくれればいいのに。
本当は、この目で告白現場を見たから全部知ってるんだよと言ってやりたい。
「どうして栞ちゃんと付き合う事にしたの? 決め手は何?」
「付き合う決め手……か。そうだな、一つは栞に告白されたから。そしてもう一つは、お前には一度も話してなかったけど、昔バイクで接触事故を起こした事があった」
事故の話は今回初めて知ると思っているだろう。
でも、ここで知ってるとは言わない。
拓真の気持ちを引き出すには、このまま黙って聞くのが一番だと思ったから。
「それで?」
「被害者は栞。俺は運転操作を誤ってあいつを轢いた。最悪だよな……」
「……」
和葉は両極端な気持ちに締め付けられて返事をする声が出なかった。
そして、この後も辛い話が続くとわかっている。
悲しくて涙がジワリと浮かんだけど、残念な事に最後まで話を聞いてあげなければならない。
だから、黙って頭を頷かせた。
「事故で栞の足に傷を負わせた。だから、あいつの傷に対して一生の責任を負わなければいけないと思った」
「一生の……、責任。何それ。どーゆー意味?」
「栞は怪我をしてから2ヶ月後に引っ越して音信不通になった。だからと言って罪が消えたり、呪縛が解かれる事はなかった。俺はあの日を境に罪悪感で毎日苦しんでいた」
「……」
「次に再会したら一生守っていこうって。傷に対して何もしてあげれないけど、栞の傍にいる事が償いになるんじゃないかと思ったから」
彼の口から伝えられたのは、罪を償っていきたいという意志の塊だった。
しかも、無期限に。
これは恐らくメガネをかけて塞ぎ込んでいた時に考え抜いた結果論だろう。
栞は『傷跡は努力の勲章』と割り切って、拓真を責める事なく寛大な心で許していたのに、拓真は事故後から心に大きな傷を負って、今でも殻の中に閉じこもっている。



