土曜日がやって来た。
本来なら農作業をする日だったけど、今日は行くのをやめて美容院やショッピングに行って自由に過ごした。
もちろん一人で。
ストーカー事件の時に拓真の連絡先を聞いたくせに、休む連絡を入れなかった。
つまりドタキャン。
最低だね、私。
拓真を追い続ける事に疲れたから少し反応を見たいなと思っていたけど、今日も栞が隣にいるせいか丸一日拓真からの連絡はなかった。
以前、放課後に敦士に連れ出されて拓真と一緒に帰らなかった時みたいに、具合が悪いとでも思っているのかな。
今日は数ヶ月ぶりに、母親と二人きりの夕食だ。
おじさんは職場の接待でゴルフに行っていて午前中から不在だ。
夜は飲みに行くらしい。
だから、今晩は母親と二人きり。
おじさんは母親代わりに家事を頑張っていたから、たまにはこんな休息があってもいいと思っている。
「ねぇ、お母さん。このハンバーグ誰が作ったの?」
「お父さんよ」
「じゃあ、誰が焼いたの?」
「私」
「……だよね。盛り付けがぐっちゃぐちゃだし、焦げてるし、お母さんは料理のセンスがないから、このハンバーグは絶対お母さんが焼いたんだと思った」
「やぁね。料理のセンスがないなんて、人の事言えないくせに」
母親との会話は至ってシンプル。
昔から私に無関心だから、二人で暮らしていた時ですら、こうやって一緒に食事をする機会が少なかった。
母親は、普段から会話のキャッチボールをするようなタイプではない。
男にはめっきり甘いが、多くを語らないクールなタイプ。
だから、昔から悩みなどを相談した事がない。
母親というより、知り合い程度の軽い付き合いと言った方が早いだろう。
いや……。
帰宅しても『おかえり』の挨拶すらしてくれなかったから、ひょっとしたら知り合い以下かもしれない。
そんな母親だけど、食事をしていた手を急に止めて珍しく質問をしてきた。
「ねぇ、和葉。どうして『お父さん』って呼んであげないの? あんなに毎日頑張ってあんたに尽くしてくれてるのに……」
いつ以来ぶりかはわからない母親からの質問は、新しい父親の話題だった。
そう……。
私は父親の事をまだ『お父さん』と一度も呼んだ事がない。
彼はいつも父親以上の役割をこなしてくれているから父親と認めているけど、さすがにこの歳になると呼ぶにはちょっとした勇気が必要だった。
「おじさんをお父さんって呼んだら、もう二度と会えないような気がして……」
「どうして?」
「三人目のヤンキーの父親の時、かなり無理しながら呼んだら、それ以来会えなくなっていつの間にか名字が戻っていたから」
「縁がなかったのよ。あの熟女好きの変態男なんて……」
「……」
どうやら以前の父親と何か問題があったらしい。
当然、離婚した理由など知らされていない。
いつも父親は勝手にいなくなっていた。
そして、学校に提出する書類の名字が、いつの間にか一ノ瀬に戻っていた。
私は自分の名字が戻っていた事すら知らなかったから、学校で赤っ恥をかいた。
母親はいつも私を困らせる厄介な存在である。
過去の父親とは謎ばかりが残る結婚生活だったけど、離婚は母親なりのけじめのつもりなのだろうか。
母親は唯一の血の繋がった家族なのに、残念ながらいつも考え方がわからなくてついていけない。



