「……うん。最近はなかなか思うようにいかなくて。自分の気持ちを押し殺してるって言うのかな。だから、毎日どう過ごしたらいいか分からなくなって……」
和葉は店内の騒々しい大音量に声がかき消されながらも、少し言葉を濁したまま気持ちを伝えた。
敦士は私を好きでいてくれてるのに、他の男の恋の相談なんて出来るはずがない。
そこまで無神経じゃないから、中途半端な答えになってしまう。
敦士はメダルを入れている手を止めると、ゆっくりと切実な目を向けた。
「毎日そんな泣きそうな顔ばかりしてるけど、それで幸せなの? 人生は一度きりしかないのに気持ちを押し殺してるって辛すぎだろ」
和葉は目線を手元に置いてだんまりと口を塞いだ。
幸せ……?
少なくとも栞が現れてからそう感じた日はなかった。
それまでは拓真と関係が良好だった。
恋人関係に発展するまで、あともうひと押しだったはず。
でも、栞が立ち位置を奪って来ている間に傷付くのが怖くなったから、現実逃避しか考えなくなった。
拓真の目の色が変わってしまったらと思うだけで、ビクビクしている。
恋愛は人を臆病にする。
だから、今日も尻尾を巻いて逃げて来た。
立ち向かう勇気を起こす事さえ忘れてしまったかのように……。
「俺さ、お前の辛そうな顔は見たくない。お前が俺の女なら、絶対悲しませないけどね」
「……」
普段なら拳を上げて『冗談ばっか辞めてよ』って冗談混じりどついたりしてたのに、今日は不思議なくらい敦士の言葉が染みてくる。
どうしたのかな、私……。
拓真が好きなのには変わりないのに、我慢しすぎてオカシクなっちゃったのかな……。
敦士は私が他の人を想っている事が嫌じゃないのかな。
私なんて好きな人にはすぐにヤキモチ妬いちゃうのに。
敦士も栞みたいに精神が強いのかな……。
「俺なら辛い時は傍にいてあげる。涙を流した時は優しく拭いてあげる。お前の願いを全部叶えてやれるのに……」
和葉は敦士の想いが耳に入ると、我慢していた気持ちが溢れ返って肩を丸めて両目から涙をポロポロと滴らせた。
たった一度でいいから、拓真の口からこの言葉を聞きたかった。
でも、その夢はきっと叶わない。
栞が拓真と距離を縮めていく度に拓真の気持ちは遠退いている。
だけど、情けない自分を救い出してくれる敦士に少し助けられた。
もう精神的にボロボロだったから、支えてくれる存在を必要としていた。
敦士は泣き崩れる和葉を見ると、無言で背中をポンポン叩いた。



