拓真と直接話がしたかった。
話題は何でもいいから。
たったひと言でもいいから。
お互いの目をしっかり見つめて笑い合いたかった。
でも……。
栞が邪魔するからその願いは無残にも砕け散った。
小さく咲かせていた恋の花は、栄養不足で生育不足に。
ーー今日は金曜日。
栞が現れてからの約一週間は、私にとって地獄のような月日。
幸せな時間はあっという間なのに、辛い時間は何故かやたらに長く感じる。
明日は農作業の日。
いよいよ栞が畑仕事に参入してくる。
だから、まだ明日にならないで欲しい。
拓真……。
私の気持ちを知ってるくせに、間に栞を入れないでよ。
ここ一週間、ろくに話が出来ていない事に気付いてないの?
それとも、栞の事で頭がいっぱいに?
毎日苦しくて胸が痛いよ。
喉の奥を伝っていく涙の味が苦くて仕方ない。
今日も丸一日喋れなくて辛かったけど、放課後まで何とか耐え凌いだ。
放課後こそは何としてでも話そうと思い、落ち込んでいる気分を奮い立たせた。
そして、放課後になり、拓真と二人きりで話をしようと思って下駄箱で到着を待った。
せめて農作業だけは栞抜きでお願いしたい。
一週間のうちのたった一日でいいから、二人きりの時間を設けたかった。
でも、下駄箱には一人で現れないと思っている。
二人が並んで歩く光景が定番化してるから想像しなくてもわかる。
頭を下げてお願いすれば、さすがの栞でも二人きりで話くらいはさせてくれるだろう。
それはあまりにも惨めだけど、これ以上の手段は見つからない。
そんな淡い期待を込めて、拓真のクラスの下駄箱で待ち続けた。
学生鞄を両手に持って胸をドキドキさせながら、軽く瞼を伏せて拓真の到着を待っていると……。
「和葉っ!」
突然、隣から名指しで誰かに呼ばれた。
反応して顔を右に向けると、声をかけてきたのは敦士。
一瞬の期待は、一瞬で崩れ去っていく。
「敦士……」
ポツリと名前を呟くと、その向こう側から拓真と栞の姿が視界に入った。
急展開に見舞われると、クワッと目を見開いた。
嘘……。
どうしよう。
敦士と二人きりでいるところを拓真に見られたら、また誤解されちゃう。
今日は拓真と二人きりで話をすると心に誓っていたのに……。
和葉は握りこぶしに胸に当てて勢いよく目を逸らした。
「今日はダメ。これから大事な用があるから、敦士とは一緒に帰れない」
髪で顔を隠しながらハッキリと断った。
すると、敦士は和葉の手首をグイッと掴んで身体を引き寄せる。
「お前さぁ、そんな顔のままで今からどうするつもりなの?」
「えっ……」
「……ってか、俺が無理! ほら、行くよ!」
敦士は呆れ口調でそう言うと、強引に和葉の手首を引いて下駄箱から離れる。
和葉は足をもつれさせながら引きずられるように足を進ませた。
「ねぇ! 敦士……。ちょっと待って」
手を振りほどこうとしたけど、今日の敦士は私の気持ちを受け入れない。
広い背中を見せたまま足を先にズンズン進めるだけで、その間一切口を開かなかった。
敦士……。
私、一体どんな顔してたの?
どうしていきなり外へ連れ出したの。
敦士が駅と逆方向の人影が少ない狭い路地裏に入った隙を狙って、手を勢いよく振り払った。
「やめてよ!」
敦士に連れ出されて拓真と話す機会を失った和葉は、荒々しい態度で睨みつけた。
「敦士はいつも強引過ぎる! 私が今どんな気持ちなのかわからないでしょ?」
「……わからなかったら、何?」
「さっき、『今日は大事な用事がある』って言ったのに。私には、今日しか時間がなかったのに……」
敦士に怒号を浴びせながらも声は情けないほど震えている。
しかし、敦士も黙っていない。



